鍼灸院は「どこにあるか」だけで選ばれるわけではない
鍼灸院を開業するとき、多くの先生が立地を重視します。
駅から近いか。
住宅地にあるか。
商店街に面しているか。
近くに競合の治療院があるか。
看板が見えやすいか。
もちろん、立地はとても大切です。
しかし、現代の患者さんは、単に「近いから」という理由だけで鍼灸院を選ぶわけではありません。
スマートフォンで検索し、Googleマップを見て、口コミを読み、ホームページを比較し、SNSで雰囲気を確認します。
そのうえで、
「ここは自分の悩みに合っていそう」
「この先生なら相談しやすそう」
「この院は他と少し違う」
「自分が求めている施術を受けられそう」
と感じた院を選びます。
つまり、鍼灸院の集客では、
地域の中で自院がどのように認識されるか
が重要になります。
この考え方が、今回解説する ポジショニング です。
マーケティング用語解説:ポジショニングとは?
ポジショニングとは、マーケティングにおいて、顧客の頭の中に自社の商品やサービスをどのような位置づけで認識してもらうかを設計する考え方です。
簡単に言えば、
他と比べたときに、何の院として思い出してもらうか
ということです。
鍼灸院で言えば、
「美容鍼に強い鍼灸院」
「自律神経の不調に寄り添う鍼灸院」
「産後ケアが相談できる鍼灸院」
「スポーツ障害に詳しい鍼灸院」
「女性が安心して通える鍼灸院」
「東洋医学の説明がわかりやすい鍼灸院」
といったように、患者さんの中でどう記憶されるかがポジショニングです。
ここで大切なのは、ポジショニングは「自分たちが言いたいこと」だけでは決まらないという点です。
自院がどれだけ
「高い技術があります」
「丁寧に施術します」
「幅広い症状に対応できます」
と言っても、患者さんの頭の中で明確な印象にならなければ、選ばれる理由にはなりにくいのです。
ポジショニングとは、
患者さんから見て、何の相談先として認識されるかを決めること
なのです。
なぜ鍼灸院にポジショニングが必要なのか
鍼灸院にポジショニングが必要な理由は、患者さんの選択肢が増えているからです。
身体の不調を感じたとき、患者さんには多くの選択肢があります。
鍼灸院。
整骨院。
整体院。
リラクゼーションサロン。
病院。
整形外科。
パーソナルトレーニング。
ストレッチ専門店。
セルフケア動画。
市販薬や健康グッズ。
つまり、鍼灸院は鍼灸院同士だけで比較されているわけではありません。
患者さんの頭の中では、
「この不調をどこに相談するのがよいのか」
という広い選択肢の中で比較されています。
その中で選ばれるためには、
自院が何に強く、どんな人に向いているのか
をわかりやすく伝える必要があります。
たとえば、同じ地域に複数の鍼灸院がある場合、
A院:何でも対応します
B院:肩こり・腰痛に対応します
C院:デスクワークによる首肩こりと自律神経の不調に特化しています
という3つの院があったとします。
慢性的な首肩こりと不眠に悩む会社員から見ると、C院が一番自分に合っているように感じられるかもしれません。
このように、ポジショニングが明確な院は、患者さんにとって選びやすくなります。
ポジショニングは「差別化」と似ているが、少し違う
ポジショニングは、よく「差別化」と同じように語られます。
たしかに、他院との違いを明確にするという意味では近い考え方です。
しかし、単に変わったことをすることがポジショニングではありません。
たとえば、
「珍しい施術法を使っている」
「内装がおしゃれ」
「料金が安い」
「営業時間が長い」
これらは差別化の要素にはなりますが、それだけで強いポジショニングになるとは限りません。
ポジショニングで大切なのは、患者さんにとって意味のある違いになっているかどうかです。
たとえば、
「夜22時まで営業」
という特徴は、ただの営業時間の情報です。
しかし、
「仕事帰りでも通いやすい、ビジネスパーソンのための鍼灸院」
と表現すると、患者さんにとって意味のあるポジションになります。
また、
「女性鍼灸師が在籍」
という特徴も、
「女性特有の不調を安心して相談できる鍼灸院」
と伝えることで、患者さんにとっての価値が明確になります。
つまり、ポジショニングとは、
自院の特徴を、患者さんにとっての選ぶ理由に変えること
なのです。
鍼灸院で考えられるポジショニングの具体例
ここでは、鍼灸院で考えられるポジショニングの例を紹介します。
例1:自律神経の不調に寄り添う鍼灸院
自律神経の不調に悩む患者さんは、症状が一つに絞れないことが多くあります。
眠れない。
疲れが抜けない。
胃腸の調子が悪い。
動悸がする。
息苦しい。
気分が落ち込みやすい。
病院では異常がないと言われた。
このような患者さんに向けて、
「自律神経の不調に寄り添う鍼灸院」
「眠り・疲労感・ストレスによる身体の乱れを整える鍼灸院」
と打ち出すことで、悩みを持つ人に届きやすくなります。
このポジションでは、単に「鍼灸施術をします」と伝えるのではなく、問診の丁寧さ、生活習慣への理解、東洋医学的な見立て、継続的な体調管理を伝えることが大切です。
例2:産後ケアに強い鍼灸院
産後の女性は、腰痛、肩こり、腱鞘炎、疲労感、睡眠不足、冷え、気分の不安定さなど、複数の不調を抱えることがあります。
この場合、
「産後の腰痛と疲労感に寄り添う鍼灸院」
「育児中のお母さんの身体を整える鍼灸院」
というポジショニングが考えられます。
このポジションでは、施術内容だけでなく、
子連れ来院は可能か。
ベビーカーで入れるか。
授乳中でも施術を受けられるか。
産後いつから相談できるか。
女性スタッフがいるか。
短時間でも対応できるか。
といった情報が重要になります。
患者さんにとっては、技術そのものだけでなく、通いやすさや安心感も選ぶ理由になるからです。
例3:スポーツ障害・コンディショニングに強い鍼灸院
スポーツをする人にとって、身体の不調は日常生活だけでなく競技成績にも関わります。
この場合、
「スポーツ障害とコンディショニングに強い鍼灸院」
「学生アスリートのケガ予防と競技復帰を支える鍼灸院」
というポジショニングが考えられます。
このポジションでは、
どの競技に対応しているか。
急性期・慢性期の考え方。
試合前後のケア。
再発予防。
パフォーマンス維持。
保護者への説明。
医療機関との併用。
などを発信すると、患者さんや保護者に安心感を与えられます。
例4:美容鍼に強い鍼灸院
美容鍼を打ち出す場合は、見た目の変化だけでなく、身体全体の状態との関係を伝えることが大切です。
たとえば、
「肌と身体を内側から整える美容鍼灸院」
「むくみ・たるみ・疲れ顔に向き合う美容鍼」
というポジショニングが考えられます。
美容鍼の場合、写真やデザイン、院内の雰囲気、清潔感、料金表示、施術後の注意点などが重要になります。
また、単に「小顔」「リフトアップ」といった言葉だけに頼るのではなく、睡眠、冷え、食いしばり、首肩こりなど、全身の状態との関係を説明すると、鍼灸院らしい専門性が伝わります。
例5:働く人の慢性疲労に寄り添う鍼灸院
現代では、仕事のストレスや長時間労働によって、慢性的な疲労感を抱える人が多くいます。
この場合、
「働く人の疲労と自律神経を整える鍼灸院」
「仕事帰りに身体を整えるビジネスパーソンのための鍼灸院」
というポジショニングが考えられます。
このポジションでは、
夜間営業。
駅からのアクセス。
着替えの有無。
短時間メニュー。
睡眠やストレスへの対応。
デスクワークによる首肩こり。
胃腸の不調や疲労感。
などを伝えると、患者さんにとって具体的にイメージしやすくなります。
ポジショニングを考えるための3つの視点
鍼灸院がポジショニングを考えるときは、次の3つの視点で整理するとわかりやすくなります。
1. 自院の強み
まず、自院の強みを整理します。
得意な症状。
経験の多い患者層。
施術方針。
院内環境。
立地。
営業時間。
先生の経歴。
説明の丁寧さ。
女性スタッフの有無。
東洋医学への強み。
スポーツ経験。
地域とのつながり。
ここで大切なのは、自分が強みだと思っていることだけでなく、患者さんからよく褒められることも見ることです。
たとえば、先生自身は当たり前だと思っていても、患者さんから見ると、
「説明がわかりやすい」
「話しやすい」
「無理に通わせようとしない」
「落ち着く空間」
「セルフケアまで教えてくれる」
といった点が大きな強みになっていることがあります。
2. 患者さんの悩み
次に、患者さんの悩みを整理します。
ポジショニングは、自院の都合だけで決めるものではありません。
患者さんがどんな悩みを持っているのか。
どんな不安を感じているのか。
何を比較しているのか。
どんな言葉で検索しているのか。
何を決め手に来院するのか。
これらを理解することが重要です。
たとえば、自院が「東洋医学に強い」と打ち出したい場合でも、患者さんが知りたいのは「東洋医学の理論」そのものではないかもしれません。
患者さんが求めているのは、
「なぜ不調が続いているのかを丁寧に見てほしい」
「薬だけではなく身体全体を整えたい」
「検査では異常がないと言われた不調を相談したい」
ということかもしれません。
自院の強みを、患者さんの悩みに結びつけることが大切です。
3. 競合との違い
最後に、地域内の競合を確認します。
近くにどんな鍼灸院があるのか。
整骨院や整体院は何を打ち出しているのか。
美容鍼を強く出している院はあるのか。
自律神経や不眠に特化している院はあるのか。
口コミでは何が評価されているのか。
料金や営業時間はどう違うのか。
競合を見る目的は、真似をすることではありません。
地域の中で、自院がどの立ち位置を取ると伝わりやすいかを考えるためです。
たとえば、周辺に「安さ」を打ち出す院が多い場合、自院はあえて「丁寧なカウンセリング」や「完全予約制の落ち着いた施術」を打ち出す方が合っているかもしれません。
また、美容鍼を打ち出す院が多い地域であれば、自院は「自律神経」「睡眠」「産後ケア」など、別の悩みに寄せる選択もあります。
SEOにおけるポジショニングの重要性
ポジショニングは、SEOにも大きく関係します。
なぜなら、検索される記事やページは、
誰のどんな悩みに答えているか
が明確であるほど作りやすいからです。
たとえば、
「鍼灸院 京都」
というキーワードだけでは競合が多く、検索意図も広すぎます。
一方で、
「京都 自律神経 鍼灸」
「四条烏丸 不眠 鍼灸」
「産後 腰痛 鍼灸 京都」
「美容鍼 たるみ 京都」
「スポーツ障害 鍼灸 京都」
のように、自院のポジションに合ったキーワードを設定すると、記事やページの方向性が明確になります。
ポジショニングが曖昧な院は、SEO記事も散らかりやすくなります。
肩こりの記事も書く。
美容鍼の記事も書く。
不眠の記事も書く。
スポーツ障害の記事も書く。
産後ケアの記事も書く。
もちろん幅広く書くこと自体は悪くありません。
しかし、自院が何に強いのかが見えないまま記事が増えると、サイト全体の印象がぼやけます。
SEOを考えるうえでも、
自院はどのテーマで専門性を高めるのか
を決めることが重要です。
ポジショニングをホームページに反映する方法
ポジショニングは、決めただけでは意味がありません。
ホームページやSNS、Googleビジネスプロフィールに反映して初めて、患者さんに伝わります。
特に重要なのは、ホームページのトップページです。
トップページを見た瞬間に、
誰のための院なのか。
どんな悩みに対応しているのか。
どんな考え方で施術するのか。
他院と何が違うのか。
初めてでも安心できるのか。
これらが伝わる必要があります。
たとえば、自律神経に強い院なら、
「眠れない・疲れが抜けない・原因のわからない不調に。東洋医学の視点で身体全体を整える鍼灸院」
というように、患者さんの悩みと言葉を入れると伝わりやすくなります。
美容鍼に強い院なら、
「たるみ・むくみ・食いしばりによるフェイスラインの悩みに。肌と身体を内側から整える美容鍼」
といった表現が考えられます。
重要なのは、
自院が言いたい専門性ではなく、患者さんが探している悩みから始めること
です。
Googleマップ・口コミにもポジショニングは表れる
ポジショニングは、ホームページだけでなくGoogleマップにも表れます。
Googleビジネスプロフィールの説明文、投稿、写真、口コミの内容が、自院の印象を作ります。
たとえば、口コミに、
「自律神経の不調で相談しました」
「不眠で通っています」
「産後の腰痛で助かりました」
「美容鍼で顔だけでなく肩こりも楽になりました」
「スポーツのケガで大会前に見てもらいました」
といった声が増えると、Googleマップ上でも自院の特徴が伝わりやすくなります。
また、投稿機能を使って、
「梅雨時期の自律神経の乱れ」
「産後の腰痛と抱っこの負担」
「デスクワークによる首肩こり」
「美容鍼と食いしばりの関係」
などを発信すると、ポジショニングがさらに明確になります。
患者さんは、院が自分で言っていることだけでなく、口コミや写真、投稿全体から印象を判断しています。
よくある失敗例
ポジショニングでよくある失敗も確認しておきましょう。
失敗例1:何でもできることを前面に出しすぎる
「肩こり、腰痛、不眠、美容、産後、スポーツ、冷え、頭痛、胃腸、メンタル、すべて対応します」
このように幅広く並べると、情報としては正しいかもしれません。
しかし、患者さんから見ると、結局何が得意なのかがわかりにくくなります。
対応できる症状を載せることは大切ですが、メインで打ち出すテーマは絞った方が伝わります。
失敗例2:専門用語でポジションを作ってしまう
「経絡治療専門」
「中医学的弁証に基づく施術」
「筋膜連鎖にアプローチ」
これらは専門性として重要です。
しかし、初めて鍼灸院を探す患者さんには、すぐに価値が伝わらないことがあります。
専門用語を使う場合は、患者さんの悩みに翻訳する必要があります。
たとえば、
「身体全体のバランスを見ながら、冷え・睡眠・胃腸の状態も含めて整える鍼灸」
と表現すると、伝わりやすくなります。
失敗例3:競合の真似だけになっている
近隣の人気院が美容鍼を打ち出しているから、自院も美容鍼を前面に出す。
他院が自律神経を打ち出しているから、自院も同じようにする。
このように競合の真似だけでポジションを決めると、自院らしさが見えにくくなります。
競合を見ることは大切ですが、最終的には自院の強み、患者さんの悩み、地域のニーズを合わせて考える必要があります。
失敗例4:価格だけで差別化しようとする
「地域最安値」
「初回割引」
「キャンペーン価格」
価格はわかりやすい差別化ですが、長期的には消耗しやすい方法です。
鍼灸院の場合は、価格だけで選ばれるよりも、
「なぜこの院に相談したいのか」
「この先生に見てもらいたい理由は何か」
「ここなら安心して通えそうか」
という価値で選ばれる方が、継続や紹介につながりやすくなります。
今日からできる実践ポイント
まずは、自院のポジショニングを一文で書いてみましょう。
以下の型を使うと考えやすくなります。
当院は、〇〇に悩む人のための、〇〇な鍼灸院です。
たとえば、
「当院は、デスクワークによる首肩こりや頭痛に悩む人のための、仕事帰りに通いやすい鍼灸院です」
「当院は、産後の腰痛や疲労感に悩む女性のための、身体と心を整える鍼灸院です」
「当院は、眠れない・疲れが抜けない不調に悩む人のための、自律神経を整える鍼灸院です」
「当院は、部活動でケガを繰り返す学生のための、競技復帰と再発予防を支える鍼灸院です」
この一文ができると、ホームページのトップ、SNSプロフィール、Googleビジネスプロフィール、チラシ、ブログ記事の方向性が整いやすくなります。
次に、そのポジションに合っているかを見直します。
ホームページの見出しは合っているか。
Googleマップの説明文は合っているか。
口コミにその特徴が表れているか。
SNS投稿の内容は一貫しているか。
院内写真や雰囲気は伝わっているか。
症状別ページは整っているか。
ポジショニングは、言葉だけでなく、患者さんが触れるすべての情報に反映されます。
まとめ
鍼灸院のポジショニングとは、地域や患者さんの中で、
自院がどのような相談先として認識されるかを設計すること
です。
患者さんは、ただ近い院を選ぶのではありません。
自分の悩みに合っているか。
安心して相談できるか。
他院と何が違うのか。
通い続ける理由があるか。
こうした要素を比較しながら、鍼灸院を選んでいます。
だからこそ、自院の強みを、患者さんにとっての価値として伝えることが重要です。
ポジショニングは、奇抜な差別化ではありません。
自院の専門性、患者さんの悩み、地域のニーズを重ね合わせ、
「この悩みなら、この鍼灸院に相談したい」
と思ってもらうための設計です。
マーケティングは、売り込みではありません。
患者さんに、自院の価値を正しく届けるための翻訳です。
ポジショニングを明確にすることで、鍼灸院はただ存在する場所から、
地域の中で選ばれる治療院
へと変わっていきます。
次回は、他院との違いや自院ならではの強みを言語化する
「USP」
について解説します。
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