はじめに
鍼灸院は患者との信頼関係によって成り立つ医療サービスです。しかし、予約や料金説明の行き違い、施術後の体調不良、待ち時間に対する不満など、どんなに丁寧な対応をしていてもクレームは避けられません。問題は「クレームが起きたかどうか」ではなく、「どのように対応するか」です。適切な対応をすれば、不満を持った患者がリピーターへと変わることもあります。一方で、対応を誤るとSNSや口コミサイトで悪評が広まり、院の評判を大きく損なうリスクもあります。本記事では、鍼灸院に特化したクレーム対応を「ステップ別」に整理し、実際の現場で役立つフローや表現例を紹介します。
1. クレーム対応が重要な理由
クレームはネガティブなものと捉えられがちですが、改善点を教えてくれる貴重なフィードバックでもあります。鍼灸院では患者の身体に直接触れるため、信頼感が損なわれると通院継続が難しくなります。逆に、誠実な対応を見せることで「この院は信頼できる」と印象が高まり、長期的なリピートにつながります。特に小規模院では口コミの影響が大きいため、クレーム対応は経営に直結する課題です。
2. クレームの種類を把握する
まずはどのようなクレームが発生しやすいかを理解しておくことが大切です。鍼灸院に多いクレームの種類には以下があります。
- 接遇系:受付の態度が悪い、説明が不十分
- 予約・時間系:待ち時間が長い、予約が取れない、ダブルブッキング
- 施術系:効果が感じられない、施術後に痛みや不快感が出た
- 料金系:料金説明が不足、見積もりと違う、総額表示がなかった
- 環境系:院内が寒い・暑い、清潔感が足りない
これらを把握しておくことで、事前の予防策と的確な対応が可能になります。
3. ステップ別クレーム対応マニュアル
ステップ1:傾聴と共感
患者の話を遮らず、最後まで聞ききることが基本です。感情的になっている患者に対しては、内容よりも「気持ちを理解している」姿勢を示すことが重要です。
- 安全な対応例:「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。詳しくお聞かせいただけますか。」
- 避けたい対応例:「そんなはずはありません」「他の患者さんは満足しています」
ステップ2:事実確認
次に、スタッフ間で情報を整理し、発生した事実を確認します。記録が残っている場合はカルテや予約履歴を確認しましょう。ここで曖昧な回答をすると、患者の不信感を増幅させます。
ステップ3:初期対応
その場で解決できる場合は迅速に対応し、解決が難しい場合は上長や院長にエスカレーションします。返金や再施術の判断はスタッフ個人で行わず、必ず責任者に確認を取ることが大切です。
ステップ4:再発防止策の提示
クレームは一時的に収めるだけでなく、再発防止を示すことが信頼回復のカギとなります。「今後は予約システムを改善いたします」「料金表をよりわかりやすく掲示します」といった具体策を提示しましょう。
ステップ5:フォローアップ
クレーム後のフォローは忘れられがちですが非常に重要です。後日電話やメールで体調や満足度を確認することで、誠実な姿勢が伝わり、信頼回復につながります。
4. クレーム対応で使える表現例
患者対応では、ほんの一言で印象が大きく変わります。
- 「ご意見をありがとうございます。改善に活かしてまいります。」
- 「大切なお時間を割いてお話しいただき感謝いたします。」
- 「今後はこのようなことがないように、〇〇の対策を実施いたします。」
逆に、「仕方ありません」「当院では対応できません」といった表現は避けましょう。
5. 院内体制の整備
クレームを個人任せにすると、対応の質がばらつきます。院として統一のマニュアルを整備し、スタッフ全員が同じ流れで対応できるようにすることが重要です。定期的に研修を行い、実際の事例を共有して対応力を高めましょう。クレーム記録を蓄積することで、改善点を可視化し、長期的なサービス向上にもつなげられます。
クレーム対応チェックリスト
- □ 患者の話を最後まで傾聴したか
- □ 共感の姿勢を示したか
- □ 事実確認を記録と照合したか
- □ 初期対応を迅速に行ったか
- □ 再発防止策を患者に伝えたか
- □ フォローアップを行ったか
まとめ
クレーム対応は避けたい業務のひとつですが、適切に行えば信頼向上のチャンスにもなります。重要なのは、傾聴と共感をもって対応し、事実を正確に確認し、解決策と再発防止策を明確に伝えることです。そのうえでフォローアップを行うことで、患者は「この院は誠実に対応してくれる」と感じ、リピーターにつながる可能性が高まります。また、院内全体で統一したマニュアルと研修を導入すれば、対応の質を均一化し、トラブルを最小限に抑えられます。クレーム対応を「リスク」ではなく「改善の機会」と捉えることが、長期的な経営の安定と信頼獲得の鍵となるでしょう。
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