はじめに
背中は鍼灸臨床で最も多く触れる領域のひとつです。特に腰痛・肩こり・慢性疲労といった症状は、脊柱起立筋群の緊張や筋疲労と深い関わりがあります。脊柱起立筋群は「最長筋」「腸肋筋」「棘筋」の三層から成り、脊柱を縦に支え、姿勢保持の要となります。また、この筋群のすぐ上には膀胱経の兪穴や督脈の要穴が並んでおり、骨と筋を正確に触診することでツボの位置精度を高めることができます。本記事では、脊柱起立筋群の解剖学的特徴、触診のポイント、ツボとの関連、臨床応用を詳しく整理します。
脊柱起立筋群の解剖学的特徴
1. 最長筋(Longissimus)
- 起始:仙骨・腰椎棘突起・腸骨稜
- 停止:肋骨・胸椎横突起・頸椎横突起・側頭骨乳様突起
- 作用:体幹伸展・側屈
- 臨床意義:腰痛・肩こりに直結。
2. 腸肋筋(Iliocostalis)
- 起始:腸骨稜・仙骨・腰椎
- 停止:肋骨・頸椎横突起
- 作用:体幹伸展・側屈、胸郭の安定
- 臨床意義:呼吸運動や側屈制限に関与。
3. 棘筋(Spinalis)
- 起始:腰椎・胸椎棘突起
- 停止:胸椎・頸椎棘突起
- 作用:脊柱伸展
- 臨床意義:深部の固さとして腰背部痛の原因になる。
触診の方法
- 棘突起を確認:背骨の正中をなぞる。
- 筋腹を触る:棘突起の外側1〜2横指で縦に走る隆起が脊柱起立筋群。
- 収縮確認:体幹を伸展させると筋腹が浮き上がる。
- 左右差評価:腰痛や肩こりでは左右の硬さに差が出やすい。
脊柱起立筋群と関連する代表的なツボ
腰背部の膀胱経ツボ(兪穴群)
- 腎兪(BL23):第2腰椎棘突起下、1.5寸外方。腰痛・泌尿器疾患に。
- 大腸兪(BL25):第4腰椎棘突起下、1.5寸外方。腰痛・便秘に。
- 肝兪(BL18):第9胸椎棘突起下、1.5寸外方。肝疾患・目の症状に。
- 心兪(BL15):第5胸椎棘突起下、1.5寸外方。心疾患・不安感に。
正中線(督脈)
- 命門(GV4):第2腰椎棘突起下。腎陽を補う。
- 腰陽関(GV3):第4腰椎棘突起下。腰痛の中心的ツボ。
- 大椎(GV14):第7頸椎棘突起下。全身の陽気をめぐらす。
👉 兪穴は脊柱起立筋群の表層に位置しており、筋緊張とツボを同時に評価できる。
臨床応用
1. 腰痛
- 腎兪・大腸兪・腰陽関を中心に取穴。
- 脊柱起立筋群の緊張部位を阿是穴として追加。
2. 肩こり・背部痛
- 肝兪・心兪を活用。僧帽筋と合わせて施術。
- 大椎・風池を組み合わせると効果的。
3. 慢性疲労・自律神経症状
- 命門・腎兪で腎陽を補う。
- 背部兪穴と腹部任脈穴を同時に取穴して全身調整。
4. 姿勢改善
- 脊柱起立筋群の左右差を調整。
- 腸肋筋を緩めると体幹の柔軟性が増す。
学び方のステップ
- 棘突起を触診:第7頸椎〜第5腰椎まで順に確認。
- 筋腹を確認:起立筋群の硬さを触る。
- ツボを重ねる:腎兪・大腸兪・腰陽関を実際にマーキング。
- 症例で練習:腰痛・肩こり・疲労症状を設定し、選穴を組み立てる。
まとめ
脊柱起立筋群は体幹を支える主要筋群であり、腰痛・肩こり・全身疲労と深く関わります。この筋群を触診し、兪穴群や督脈のツボを正確に重ねることで、施術の精度が格段に向上します。鍼灸師は骨・筋・ツボを三位一体で理解し、臨床で「背部を診て全身を整える」視点を持つことが求められます。
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