はじめに:広告トラブルは「知らなかった」では済まされない時代へ
「〇〇に効く」「即効性あり」「患者さんの喜びの声」——
鍼灸院のホームページやチラシ、SNSでよく見かける表現ですが、これらのうちいくつが法律に違反しているか、あなたは正確に説明できますか?
2025年現在、鍼灸師が発信する広告は、医療法・医療広告ガイドライン・あはき(あん摩・はり・きゅう)広告規制の対象となり、内容次第では厚生労働省や保健所による行政指導の対象になります。実際に、表現のわずかな違いで「違反」とされるケースもあり、リスクは決して軽視できません。
本記事では、あはき師が遵守すべき広告ルールを、HP・SNS・紙媒体ごとに整理し、実際に使われがちなNG表現・その修正例も紹介します。
また、チェックリストやテンプレートDLリンクもご用意していますので、記事を読みながら自院の広告を今すぐ点検できます。
要点まとめ
- ✅ 鍼灸院の広告には、医療広告ガイドラインとあはき広告規制が適用される
- ✅ 「効果の断定」「体験談の掲載」「ビフォーアフター」は原則NG
- ✅ 媒体ごとに表現の制限が異なるため、HP・SNS・チラシ別にチェックが必要
- ✅ 誤表現は行政指導・Web削除指導の対象になる
- ✅ 自院の広告は定期的にチェックリストで見直しを
1. あはき広告ガイドラインとは?医療広告との違い
「あはき広告規制」の根拠
鍼灸師(はり師・きゅう師)は、医師とは異なる立場の医業類似行為者として、以下の法令に基づく広告規制を受けます:
- あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師に関する広告規制(厚生労働省通達/最終改訂:令和5年)
- 医療法第6条の5(医療広告の原則)
- 医療広告ガイドライン(令和5年6月改訂)
これらの規制は、「広告の信頼性を確保し、利用者が誤認しないようにする」ことを目的としています。
医療広告とあはき広告の違い
項目 | 医療広告(医師・病院等) | あはき広告(鍼灸・柔整等) |
---|---|---|
許可される広告内容 | 限定列挙制(指定事項のみ可) | 原則広告不可、例外的に一部のみ可 |
媒体 | チラシ・看板・HP・SNSなど | 同上 |
ガイドライン主体 | 厚生労働省 | 厚生労働省(ただし通達ベース) |
違反時の措置 | 指導・警告・勧告・保健所からの行政指導 | 同上 |
つまり、あはき師の広告も広く法的規制の対象であり、「自由に書ける」は大きな誤解です。
2. NG表現とその理由|実例で学ぶ
以下に、2025年8月現在の最新ガイドラインに基づくNG表現と修正例を提示します。
NG表現例 | 違反理由 | 修正例 |
---|---|---|
「即効性あり」「1回で改善」 | 治療効果の断定 | 「個人差がありますが…」など曖昧化 |
「患者の声」「〇〇さんの体験談」 | 体験談の掲載禁止 | 院内掲示であってもNG |
Before / Afterの写真 | 客観的根拠がなく誤認の恐れあり | 症状の一般情報として記載 |
「〇〇専門院」「地域No.1」 | 客観的根拠がなければ不当表示 | 使用実績や出典を明記する |
「〇〇に効く」「改善率90%」 | 医療効果の断定・比較広告禁止 | 「適応症として知られています」等 |
注意:SNS投稿も広告扱いされる可能性あり
Instagram・X(旧Twitter)などのSNSでも、内容・頻度・意図によっては広告とみなされるケースがあります。
フォロワーへの定期的なサービス紹介や、ハッシュタグによる誘導も、広告規制の対象になるリスクがあります。
3. 媒体別の表現ガイド(HP・SNS・チラシ)
🔹 ホームページ・ブログ
- 「治療効果」「体験談」「ビフォーアフター」は全てNG
- 院長紹介や院内紹介はOK(学歴・資格に誤記がなければ)
- 「よくある質問」ページの形式で説明するのは許容される場合あり(誘導的でないことが条件)
🔹 SNS(Instagram/Xなど)
- 実際の患者画像→本人の同意があっても原則NG
- ハッシュタグ「#即効性」「#改善」→誤認誘導の可能性あり
- 予約案内・営業時間の投稿は原則OK(医療行為の言及に注意)
🔹 チラシ・ポスター
- 施術目的や効果に関する言及NG
- 「○○キャンペーン」など販促要素が強い場合は規制対象になることも
- 表示物には発行責任者の明示が必要(院名・連絡先)
4. よくある質問(FAQ)
Q1:SNSに施術動画を投稿するのはOK?
状況によります。
効果を誤認させる演出やビフォーアフター表現が含まれる場合はNGです。学術的解説や衛生管理などの投稿は許容される場合があります。
Q2:「〇〇専門院」は書いていい?
根拠がなければNG。
公的認定や登録がなければ、専門性の強調は不当表示とされる恐れがあります。
Q3:「患者の声」コーナーをHPに設けてもいい?
原則NGです。
患者の主観的な感想でも、それが施術の効果として誤認される表現であれば広告違反となります。
5. 自院チェックリスト&DL素材案内
以下の項目をもとに、院内の広告物・HP・SNSをチェックしてください。
チェック項目 | OK/NG |
---|---|
治療効果を断定していないか? | □ OK □ NG |
患者の体験談や声を掲載していないか? | □ OK □ NG |
Before/After写真を使用していないか? | □ OK □ NG |
客観的根拠のない表現(例:No.1、専門院)を避けているか? | □ OK □ NG |
広告内容と施術内容に齟齬がないか? | □ OK □ NG |
6. まとめ:広告表現は「集客」だけでなく「信頼」の源泉に
あはき師にとって広告は、ただの集客ツールではありません。
それは、患者との信頼関係の入口であり、誤った表現は“誇大広告”と見なされ、院の信用を失墜させる危険があります。
とくにSNSのような拡散力の高い媒体では、一度の違反が大きな炎上や行政指導に発展することもあります。
しかし、正しいルールを理解し、テンプレートやチェックリストを活用すれば、安心して情報発信を続けることができます。
鍼灸院としての信頼性と法令順守を両立させ、患者から選ばれる院づくりを目指しましょう。
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