オレキシンとは?覚醒と食欲を支える神経ペプチドの役割と健康への影響

1. オレキシンとは?

オレキシン(別名:ヒポクレチン)は、脳の視床下部(ししょうかぶ)で作られる神経ペプチドです。
オレキシンは脳内でさまざまな神経回路に働きかけ、**「起きている力(覚醒)」「おなかが空く感覚(食欲)」「エネルギーを使う力(代謝)」**を調整する重要な信号として働きます。

つまりオレキシンは、単なる「眠気のホルモン」ではなく、

  • どれくらい元気に活動できるか
  • 集中していられるか
  • 体がどのくらいエネルギーを燃やす準備があるか
    といった“生きるリズム全体”に関わる物質です。

2. オレキシンの主な役割

2-1. 覚醒と睡眠リズムのコントロール

オレキシンは、日中に「目を覚ましていられる状態」を支える役割があります。
オレキシンがしっかり働いていると、頭がシャキッとして注意力を維持しやすく、眠気が必要以上に押し寄せにくくなります。

逆に、オレキシンが不足すると、起きていたいのに急に強い眠気に襲われたり、突然眠りに落ちてしまったりします。これはナルコレプシー(後述)と深く関係します。

2-2. 食欲とエネルギー代謝の調整

オレキシンは脳の「食べたい」「動きたい」というドライブにも関与します。
・食事をとる行動を促す
・エネルギー消費(代謝)を高める
といった働きがあり、体重や体脂肪のコントロールにも影響します。

ポイントは、オレキシンは「食べろ食べろ」と言うだけではなく、「食べたエネルギーをちゃんと使って活動する状態」も同時にサポートする、ということです。

2-3. ストレス時の覚醒サポート

ストレスがかかったとき、オレキシンは緊張感と覚醒度を高め、状況に対処できる集中状態を保つ手助けをします。
「眠いけど緊急対応しないといけない」みたいな場面で、体を“すぐ動けるモード”に持ち上げてくれる存在でもあります。

ただし、長期的にストレスが続き、オレキシン系が過剰に刺激され続けると、常にオンの状態=休めない状態になり、心身の疲労感や不調につながる可能性もあります。

2-4. 報酬・意欲の調整

オレキシンは「やる気」「達成したい」というモチベーションにも関わるとされ、報酬系(脳の快・達成感のシステム)にも信号を送ります。
簡単に言えば「目標に向かって行動する力」を支えるドライブの一部でもあります。


3. オレキシンはどこで作られ、どう働くの?

3-1. 生成される場所

オレキシンは、脳の視床下部の一部にある神経細胞で合成されます。
この神経細群は数としては多くないのに、脳全体の広い領域に信号を送り、覚醒・食欲・代謝・ストレス応答などに影響を与えます。

オレキシンには「オレキシンA」と「オレキシンB」という2つのタイプがあり、それぞれわずかに異なる働き方をします。

3-2. 受容体(OX1R・OX2R)への結合

オレキシンは、以下の2種類の受容体に結合して効果を発揮します。

  • OX1R(オレキシン1受容体)
  • OX2R(オレキシン2受容体)

どの受容体に働くかによって、覚醒維持に強く関わったり、情動・食欲の調整に関わったりと役割が少しずつ変わります。
これは、近年の睡眠薬の開発(オレキシン受容体をブロックするタイプ)や、ナルコレプシー研究にも大きくつながっている重要なポイントです。


4. オレキシンが体と心に与える影響

4-1. 身体面での影響

  • 日中の眠気をコントロールし、活動レベルを維持する
  • 食べるエネルギーと使うエネルギーのバランスをとる
  • 「なんとなくだるい」を減らし、動ける体をサポートする

オレキシンの働きがうまくいっていると、1日の中で「起きている時間」と「しっかり休む時間」のメリハリがつきやすくなります。

4-2. 精神面での影響

  • 集中力や注意力を支える
  • ボーッとせずにタスクを続ける力をサポート
  • ストレス下でも必要な覚醒水準を保つ

「午後に一気に眠くなる」「会議中にどうしても意識が落ちる」「やる気が続かない」などは、睡眠不足だけでなく、覚醒維持システム(オレキシン系)の影響も考えられます。

4-3. ストレス応答への影響

オレキシンはストレス時の緊張状態を支える一方で、過剰に働きすぎると常にONの状態になってしまうこともあります。
これが続くと「寝つけない」「浅い眠りしかとれない」「食欲が不安定」という、自律神経の乱れに似た状態を引き起こすこともあります。


5. オレキシンと関連する健康問題

5-1. ナルコレプシー(過度の眠気)

オレキシンの分泌が著しく低下、あるいはオレキシンを作る神経細胞が減少すると、日中に突然強い眠気に襲われたり、急に眠ってしまう「ナルコレプシー」という睡眠障害が起こることがあります。
ナルコレプシーの患者さんでは、オレキシンの欠乏が主要な原因の一つと考えられています。

※日中の激しい眠気や睡眠発作がある場合は、脳・睡眠の専門医による医療的評価がとても大切です。

5-2. 体重や代謝への影響(肥満との関係)

オレキシンは「食欲の刺激」だけではなく「代謝を回す」側にも働くため、乱れると

  • だるくて活動量が減る
  • でも食欲のリズムは不安定
    という状態が起こり、体重管理が難しくなる場合があります。

「疲れて動けない+なんとなく食べてしまう」は、単なる意志の問題ではなく、脳内のエネルギー調整システム(オレキシンなど)も関わっていると考えられます。

5-3. ストレス関連の不調

オレキシンが過剰に働いて、ずっと緊張・覚醒モードから抜けられないと、休息の質が下がり、慢性的な疲労や不安感が続きやすくなります。
「眠いのに休めない」「休んでも疲れが抜けない」という状態は、オレキシン+自律神経のアンバランスを示すサインであることもあります。


6. オレキシンのバランスを整えるための習慣

ここからは、オレキシンの働きを乱さないためにできるセルフケアを紹介します。
※症状が重い場合は必ず医療機関での相談を優先してください。

6-1. 規則的な睡眠リズムをつくる

  • 寝る時間・起きる時間をできるだけ毎日そろえる
  • 夜更かしのしすぎ・週末の昼までの寝だめを避ける
  • 寝る直前の強い光(スマホ・PC)を控え、寝る前に一度“落ち着く時間”を作る

オレキシンは「いつ起きて、いつ活動するか」というリズムと強く結びついています。
リズムが乱れると、日中の覚醒が下がり、逆に夜に目が冴える…という悪循環になりやすいです。

6-2. 朝のエネルギー補給(朝食をとる)

朝食は、体内時計をリセットし、「今は活動の時間ですよ」という合図になります。
これはオレキシン系の覚醒ドライブをサポートし、午前の集中力・代謝アップにもつながります。

重すぎる食事でなくてOKです。たとえば、卵・豆製品・納豆・ヨーグルト・味噌汁など「たんぱく+温かいもの」はおすすめです。

6-3. 日中の適度な運動

ウォーキングや軽い有酸素運動は、

  • 覚醒レベルを適切に高める
  • 代謝を上げる
  • 夜の“良い眠気”につなげる
    という一連の流れをサポートします。

日中しっかり活動することは、夜しっかり眠るための条件でもあります。
日中ほぼ動かずに夜だけ眠ろうとするのは、実はかなり難しいんです。

6-4. ストレスマネジメント

ストレスが強すぎると、オレキシン系が過覚醒に傾き、「頭は冴えているのに体は疲れ切っている」状態になりやすくなります。

  • 深い呼吸
  • マインドフルネス
  • ぬるめのお風呂でじんわり温める
  • 1日の終わりに“何もしない時間”をあえてつくる

これは副交感神経(リラックス側)を優位にし、体をしっかり休息モードに戻すための大切な準備です。

6-5. 鍼灸による自律神経サポート

鍼灸は、交感神経(緊張・覚醒)と副交感神経(休息・回復)のバランスを整えるサポートとして利用されることがあります。
自律神経が整いやすくなることで、「日中は必要なだけ目が覚め、夜は自然に休める」という本来のリズムに戻るお手伝いが期待されます。

こんな悩みを持つ方が相談されることがあります:

  • 日中の強い眠気、集中力の低下
  • 寝つきが悪い・眠りが浅い
  • 寝ても疲れが抜けない
  • ストレス過多でずっと張りつめている

よく用いられるツボの一例として、

  • 百会(ひゃくえ):頭頂部付近。脳の過緊張をゆるめ、気の上がりすぎを落ち着かせるケアに用いられることがあります。
  • 神門(しんもん):手首の小指側付近。心のざわつきを鎮め、眠りの準備を助けることが期待されます。
  • 内関(ないかん):手首の内側。胸のつかえや不安感に関連するケアとして知られています。

※鍼灸は、症状・体質・生活リズムをふまえて施術内容を調整します。専門家に相談したうえで受けましょう。
※日中の激しい眠気や睡眠発作がある場合は、まずは医療機関の診断が必要です。鍼灸はあくまでサポートとしてお考えください。


7. まとめ|オレキシンは「起きて活動し、夜にしっかり休む」を支えるカギ

オレキシンは、ただ眠気をコントロールするだけの物質ではありません。
覚醒・集中力・食欲・代謝・ストレス対応といった、私たちの生活のリズム全体をコントロールする“活動と休息の司令塔”のような存在です。

  • オレキシンの働きが弱いと、強い眠気や集中力低下、日中のだるさが出ることがあります。
  • オレキシン系が乱れていると、睡眠リズムや体重管理にも影響が出ることがあります。
  • 規則正しい睡眠・朝食・日中の適度な活動・ストレスケア・鍼灸による自律神経サポートは、オレキシンの健全な働きを応援する手段になり得ます。

「眠いのは根性がないから」でも「食べすぎは意志が弱いから」でもありません。
脳のリズムと神経ペプチドのバランスという“からだの仕組み”が背景にあります。

日中の眠気が強い、生活のリズムが整わない、極端な眠気や倦怠感が続くなどの症状がある場合は、医師や専門家、そして鍼灸師にも相談し、体全体のバランスを一緒に整えていきましょう。

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