日本鍼灸大学 
はじめに｜“眠っても疲れが取れない”その原因、SASかもしれません
「いびきが大きい」「日中の眠気が強い」「朝起きてもスッキリしない」──。
これらは単なる睡眠不足ではなく、睡眠時無呼吸症候群（Sleep Apnea Syndrome：SAS）のサインかもしれません。
放置すると高血圧・心疾患・糖尿病などを悪化させるリスクがあり、早期の対処が重要です。
1. 睡眠時無呼吸症候群（SAS）とは？
SASとは、睡眠中に10秒以上呼吸が止まる状態が繰り返される疾患で、
1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数（AHI：Apnea–Hypopnea Index）が5回以上で診断されます。
主なタイプ
| 分類 | 特徴 | 主な原因 |
|---|---|---|
| 閉塞性睡眠時無呼吸（OSA） | 気道が物理的に狭くなる | 肥満、扁桃肥大、顎構造など |
| 中枢性睡眠時無呼吸（CSA） | 脳の呼吸制御信号が途絶 | 心不全、脳血管障害、薬剤の影響など |
2. 主な原因とリスク要因
▶ 閉塞性（OSA）
- 肥満：首や喉周囲の脂肪が気道を圧迫
- 加齢：咽頭筋の緩み
- 構造的要因：扁桃腺肥大、舌根沈下、小顎など
- 姿勢・習慣：仰向け寝、飲酒・喫煙
▶ 中枢性（CSA）
- 心疾患：心不全や徐脈
- 脳障害：脳梗塞、脳腫瘍
- 薬剤：麻酔薬・オピオイドなど呼吸抑制作用をもつ薬の影響
3. 代表的な症状
| 症状 | 解説 |
|---|---|
| 大きないびき | 家族が気づくことが多く、呼吸停止を伴う場合も |
| 日中の強い眠気 | 睡眠の質低下による集中力・判断力の低下 |
| 朝の頭痛・倦怠感 | 酸素不足や血圧変動の影響 |
| 夜間頻尿・口渇 | 睡眠中の覚醒が増えるため |
| イライラ・抑うつ感 | 自律神経の乱れ・睡眠不足が関与 |
放置すると、高血圧・動脈硬化・脳卒中・糖尿病・心不全のリスクが上昇します。
4. 診断方法
- 問診・睡眠評価
いびき・覚醒回数・眠気の程度などを確認。家族の観察が参考になることも。 - 睡眠ポリグラフ検査（PSG）
睡眠時の脳波・呼吸・心電図・酸素飽和度などを測定。重症度分類の基準に。 - 簡易検査（自宅）
自宅でセンサーを装着し呼吸データを測定。中等度以上なら専門医へ紹介。
5. 治療法
SASの治療は、原因と重症度に応じた段階的アプローチが基本です。
(1) 生活習慣の改善（軽症～中等度）
- 体重管理：BMI25未満を目標に。体重減で症状が大幅改善するケースも。
- 禁煙・節酒：アルコールは咽頭筋を弛緩させ無呼吸を悪化。
- 睡眠姿勢：仰向けより横向き寝（特に左側）で気道が開きやすい。
- 鼻炎対策：アレルギー性鼻炎の改善で通気性アップ。
(2) CPAP療法（持続陽圧呼吸療法）
最も標準的な治療。
鼻または口に装着したマスクから空気を送り、気道を常に開いた状態に保ちます。
- 効果：いびき・眠気・血圧上昇を軽減
- 注意：継続使用が大切（最低でも1晩4時間以上）
(3) 歯科的装置（マウスピース）
下顎を前方に固定し、気道を拡げます。
- 軽症～中等度のOSAに有効
- 歯科での専門的作製が必要
(4) 外科手術
- UPPP（口蓋咽頭形成術）：喉の余剰組織を切除
- 顎矯正手術／鼻中隔矯正術など、解剖学的異常に応じて選択
(5) 鍼灸療法（補助的ケアとして）
鍼灸は、SASそのものの治療ではなく、自律神経・筋緊張・呼吸リズムの調整を目的に補助療法として活用されます。
- 百会（ひゃくえ）・風池（ふうち）・天柱（てんちゅう）：頸部の緊張緩和
- 内関（ないかん）・神門（しんもん）：リラックス・入眠促進
- 足三里（あしさんり）：体全体の気血循環を促進
鍼灸はCPAPと併用可能。副作用が少なく、ストレス軽減・睡眠の質改善をサポートします。
6. 生活でできるセルフケアポイント
□ 寝る前2時間はアルコール・カフェインを控える
□ 枕の高さを調整（首の角度が直線に保てる程度）
□ 口呼吸ではなく鼻呼吸を意識
□ 睡眠時間より“質”を重視（暗室・静音環境）
□ 体重を毎日チェック
□ 日中に15分以上の軽いウォーキング
就寝中の呼吸停止やいびきを指摘された場合は、早めに耳鼻咽喉科または睡眠専門外来を受診しましょう。
7. まとめ｜“眠りの質”を取り戻すために
睡眠時無呼吸症候群（SAS）は、命に関わる生活習慣病の一因にもなり得る疾患です。
しかし、早期発見と治療により多くの人が改善可能です。
- 軽症：生活習慣・姿勢改善＋減量
- 中等度以上：CPAP療法・マウスピース
- 補助療法：鍼灸・呼吸リハビリ・リラックス法
規則正しい生活と睡眠環境の整備、そして医療機関での定期フォローが、健やかな眠りを取り戻す第一歩です。
※いびきや日中の強い眠気が続く場合は、早めに医療機関を受診してください。鍼灸治療を行う際も、必ず医師の診断と併用する形で行いましょう。
FAQ
Q. CPAPをやめるとどうなりますか？
A. 多くの場合、無呼吸が再発します。体重減や手術などで根治しない限り、継続使用が基本です。
Q. 軽症でも治療が必要？
A. はい。軽症でも高血圧や日中の眠気がある場合は介入を検討します。
Q. 鍼灸でいびきは改善しますか？
A. 鍼灸単独では治療の中心にはなりませんが、筋緊張緩和・自律神経調整により睡眠の質が改善するケースはあります。
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