はじめに
体幹前面は内臓を保護し、呼吸・体幹安定・排便・分娩など生命活動に直結する働きを担っています。その中心となる筋が腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋です。これらは腹壁を形成し、腹部経穴の正確な取穴に不可欠なランドマークとなります。例えば、中脘(CV12)や天枢(ST25)など消化器疾患に多用されるツボは、腹直筋の上に位置しています。腹筋群を理解し、筋とツボを重ね合わせて学ぶことで、鍼灸師は消化器症状・婦人科疾患・自律神経症状に対して的確な施術を展開できるようになります。
腹直筋(Rectus abdominis)
解剖学的特徴
- 起始:恥骨結合・恥骨稜
- 停止:第5〜7肋軟骨、剣状突起
- 作用:体幹前屈、腹腔内圧の上昇
- 支配神経:肋間神経(Th7〜Th12)
臨床的意義
- 腹直筋上に主要経穴(中脘・関元・天枢など)が位置する。
- 消化器症状(胃腸の不調)や婦人科疾患に直結。
触診法
- 臍から上下に縦に走る筋腹を確認。
- 腹筋運動をさせると浮き上がり、触診容易。
外腹斜筋(External oblique)
解剖学的特徴
- 起始:第5〜12肋骨外側
- 停止:白線・腸骨稜・鼠径靭帯
- 作用:体幹前屈・側屈・回旋
- 支配神経:肋間神経・腸骨下腹神経
臨床的意義
- 腹斜筋群は「コルセット筋」として体幹を安定。
- 消化器・腰痛・呼吸補助筋として重要。
触診法
- 側腹部に手を当て、体を回旋させると収縮が確認できる。
内腹斜筋(Internal oblique)
解剖学的特徴
- 起始:腸骨稜・鼠径靭帯・胸腰筋膜
- 停止:下部肋骨、白線
- 作用:体幹回旋・側屈、腹圧保持
- 支配神経:肋間神経・腸骨下腹神経・腸骨鼠径神経
臨床的意義
- 外腹斜筋と協働し、体幹を支える。
- 婦人科疾患・便秘などに関与。
触診法
- 外腹斜筋の下層にあり、深層筋。体幹回旋で収縮を間接的に確認。
腹部筋群と関連する代表的なツボ
- 中脘(CV12):臍上4寸。胃疾患に必須。腹直筋中央に位置。
- 天枢(ST25):臍の外方2寸。大腸疾患・便秘に使用。
- 関元(CV4):臍下3寸。婦人科疾患・泌尿器疾患に必須。
- 大巨(ST27):臍下2寸・外方2寸。泌尿器・生殖器疾患に応用。
- 水分(CV9):臍上1寸。浮腫や水分代謝異常に。
👉 腹直筋の走行と肋骨・腸骨稜を基準に取穴精度を高める。
臨床応用
1. 消化器疾患
- 胃炎・逆流性食道炎 → 中脘(CV12)、天枢(ST25)。
- 便秘・下痢 → 天枢・大巨。
2. 婦人科疾患
- 月経痛・不妊症 → 関元(CV4)、大巨(ST27)。
- 更年期症状 → 腹直筋部ツボと背部兪穴を併用。
3. 自律神経症状
- 不安・イライラ → 中脘(CV12)、水分(CV9)。
- 腹式呼吸指導とあわせると効果的。
4. 腰痛・体幹不安定
- 腹斜筋群を鍛えることは腰痛予防に有効。
- 鍼灸+運動療法で相乗効果。
学び方のステップ
- 腹部触診:腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋を確認。
- ツボをマッピング:中脘・天枢・関元を腹直筋上に描く。
- 動作で確認:体幹屈曲・回旋で筋の収縮を把握。
- 臨床練習:消化器症状や婦人科疾患のケースを設定し、施術プランを組む。
まとめ
腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋は、体幹前面を構成し、消化器・婦人科・自律神経系の不調と直結する重要な筋群です。これらの筋を触診し、筋走行と腹部経穴を結びつけることで、中脘・天枢・関元・大巨などのツボを正確に取穴できます。鍼灸師は「筋とツボを重ねて学ぶ」ことで、腹部施術の精度を高め、患者の多様な症状に対応する力を養うことができます。
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