鍼灸師のための解剖学入門⑰:体幹前面筋(腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋)と腹部経穴

はじめに

体幹前面は内臓を保護し、呼吸・体幹安定・排便・分娩など生命活動に直結する働きを担っています。その中心となる筋が腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋です。これらは腹壁を形成し、腹部経穴の正確な取穴に不可欠なランドマークとなります。例えば、中脘(CV12)や天枢(ST25)など消化器疾患に多用されるツボは、腹直筋の上に位置しています。腹筋群を理解し、筋とツボを重ね合わせて学ぶことで、鍼灸師は消化器症状・婦人科疾患・自律神経症状に対して的確な施術を展開できるようになります。


腹直筋(Rectus abdominis)

解剖学的特徴

  • 起始:恥骨結合・恥骨稜
  • 停止:第5〜7肋軟骨、剣状突起
  • 作用:体幹前屈、腹腔内圧の上昇
  • 支配神経:肋間神経(Th7〜Th12)

臨床的意義

  • 腹直筋上に主要経穴(中脘・関元・天枢など)が位置する。
  • 消化器症状(胃腸の不調)や婦人科疾患に直結。

触診法

  • 臍から上下に縦に走る筋腹を確認。
  • 腹筋運動をさせると浮き上がり、触診容易。

外腹斜筋(External oblique)

解剖学的特徴

  • 起始:第5〜12肋骨外側
  • 停止:白線・腸骨稜・鼠径靭帯
  • 作用:体幹前屈・側屈・回旋
  • 支配神経:肋間神経・腸骨下腹神経

臨床的意義

  • 腹斜筋群は「コルセット筋」として体幹を安定。
  • 消化器・腰痛・呼吸補助筋として重要。

触診法

  • 側腹部に手を当て、体を回旋させると収縮が確認できる。

内腹斜筋(Internal oblique)

解剖学的特徴

  • 起始:腸骨稜・鼠径靭帯・胸腰筋膜
  • 停止:下部肋骨、白線
  • 作用:体幹回旋・側屈、腹圧保持
  • 支配神経:肋間神経・腸骨下腹神経・腸骨鼠径神経

臨床的意義

  • 外腹斜筋と協働し、体幹を支える。
  • 婦人科疾患・便秘などに関与。

触診法

  • 外腹斜筋の下層にあり、深層筋。体幹回旋で収縮を間接的に確認。

腹部筋群と関連する代表的なツボ

  • 中脘(CV12):臍上4寸。胃疾患に必須。腹直筋中央に位置。
  • 天枢(ST25):臍の外方2寸。大腸疾患・便秘に使用。
  • 関元(CV4):臍下3寸。婦人科疾患・泌尿器疾患に必須。
  • 大巨(ST27):臍下2寸・外方2寸。泌尿器・生殖器疾患に応用。
  • 水分(CV9):臍上1寸。浮腫や水分代謝異常に。

👉 腹直筋の走行と肋骨・腸骨稜を基準に取穴精度を高める。


臨床応用

1. 消化器疾患

  • 胃炎・逆流性食道炎 → 中脘(CV12)、天枢(ST25)。
  • 便秘・下痢 → 天枢・大巨。

2. 婦人科疾患

  • 月経痛・不妊症 → 関元(CV4)、大巨(ST27)。
  • 更年期症状 → 腹直筋部ツボと背部兪穴を併用。

3. 自律神経症状

  • 不安・イライラ → 中脘(CV12)、水分(CV9)。
  • 腹式呼吸指導とあわせると効果的。

4. 腰痛・体幹不安定

  • 腹斜筋群を鍛えることは腰痛予防に有効。
  • 鍼灸+運動療法で相乗効果。

学び方のステップ

  1. 腹部触診:腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋を確認。
  2. ツボをマッピング:中脘・天枢・関元を腹直筋上に描く。
  3. 動作で確認:体幹屈曲・回旋で筋の収縮を把握。
  4. 臨床練習:消化器症状や婦人科疾患のケースを設定し、施術プランを組む。

まとめ

腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋は、体幹前面を構成し、消化器・婦人科・自律神経系の不調と直結する重要な筋群です。これらの筋を触診し、筋走行と腹部経穴を結びつけることで、中脘・天枢・関元・大巨などのツボを正確に取穴できます。鍼灸師は「筋とツボを重ねて学ぶ」ことで、腹部施術の精度を高め、患者の多様な症状に対応する力を養うことができます。

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