はじめに|“のぼせ・発汗・眠れない”に寄り添う鍼灸
更年期は卵巣機能の低下によりエストロゲンが減少し、体温調節や気分、睡眠に揺らぎが生じます。
鍼灸は自律神経の調整と血流改善を軸に、ホットフラッシュ・睡眠障害・情緒不安定などの多彩な症状を横断的にケアできる点が強みです。
更年期とは?|期間と起こりやすい変化
- 目安:閉経前後の約10年間(45〜55歳前後)
- よくみられる症状
- ホットフラッシュ(のぼせ・発汗・動悸・発作後の寒気)
- 睡眠障害(入眠困難・中途覚醒)
- 心理面(不安・イライラ・気分の落ち込み・集中力低下)
- 身体面(関節痛・筋緊張・皮膚乾燥・体重増加 など)
東洋医学的な見立て
「腎陰の虚(じんいんきょ)」や「肝気の鬱(かんきのうつ)」により熱が上に偏ると捉え、
巡り(気血水)を整え、余分な熱を降ろし、足りない陰を補う方針を立てます。
鍼灸の作用機序(かんたん解説)
- 自律神経の調整:交感/副交感のバランスを整え、のぼせ・動悸・不安を鎮める
- 末梢循環の改善:温感・冷感の波をなだらかにし、睡眠の深さをサポート
- 筋緊張の緩和:肩頸のこわばりをほぐし、頭部の熱感や不眠を助ける
- 体性感覚刺激→中枢調整:落ち着き・安心感(鎮静)を誘導
治療設計|症状別アプローチと代表的ツボ
刺激は痛みのない浅刺・軽刺激を基本に、反応を見ながら微調整します。
1) ホットフラッシュ(のぼせ・発汗)
- 目的:上衝する熱の鎮静、頸肩の緊張緩和、自律神経安定
- 代表穴:百会(GV20)・合谷(LI4)・内関(PC6)・太谿(KI3)・三陰交(SP6)
- 施術例:
- 頭頂〜上肢:百会・内関で鎮静 → 合谷で熱の放散を促進
- 下肢:太谿・三陰交で“陰を補う”+棒灸/台座灸で温めすぎない穏やかな熱刺激
2) 睡眠障害(入眠困難・中途覚醒)
- 目的:就寝前の交感神経亢進を鎮め、深部体温リズムを整える
- 代表穴:神門(HT7)・安眠(EX-HN)・内関(PC6)・百会(GV20)・三陰交(SP6)
- 施術例:手関節部神門で鎮静 → 内関で胸中のつかえを緩め → 百会で頭部の熱感を下げる。
足部三陰交に温灸を少量(1–3壮)併用。
3) 情緒不安・イライラ・抑うつ感
- 目的:肝気の鬱をさばき、胸脇の張りを緩める
- 代表穴:太衝(LR3)・内関(PC6)・心兪(BL15)・肝兪(BL18)・脾兪(BL20)
- 施術例:太衝+内関のペアで情緒の波をなだらかに。背部兪穴は軽い置鍼中心で。
4) 体重増・代謝低下・胃腸の不調
- 目的:消化吸収と代謝の底上げ、むくみ是正
- 代表穴:中脘(CV12)・天枢(ST25)・足三里(ST36)・陰陵泉(SP9)
- 施術例:腹部の緊張をほぐし足三里で全身調整。必要に応じ低周波鍼通電(2–4Hz)を短時間。
5) 関節痛・肩こり・頭痛
- 目的:筋緊張の解除と微小循環の改善
- 代表穴:阿是穴(圧痛点)・陽陵泉(GB34)・肩井(GB21)・風池(GB20)
- 施術例:局所+関連経絡へ筋膜ラインに沿った浅刺、痛みが強い日は温灸>鍼刺激へ切り替え。
施術頻度・期間・評価
- 開始1か月:週1回(症状強い場合は週2回)
- 安定期:2〜3週に1回へ漸減
- 評価指標:ホットフラッシュ回数/強度/夜間発汗、入眠までの時間/中途覚醒回数、気分・集中度、体温・脈・舌・脈状などの所見
- 併用:医師の管理下でHRT(ホルモン補充療法)・漢方・睡眠介入(CBT-I)等と併走可
セルフケア|自宅でできる“整える習慣”
- 呼吸:4秒吸って6秒吐く×3分を就寝前に
- 温冷リズム:就寝90分前の40℃×10–15分の入浴→自然な眠気を誘導
- 食事:カフェイン・アルコール・辛味を控え、大豆製品(イソフラボン)やたんぱく質を適量
- 活動:日中20–30分の歩行+肩甲帯ストレッチ
- ツボ押し/台座灸:三陰交・太谿・内関・神門を“痛気持ちよさ”で各30–60秒、灸は1–3壮から
妊娠の可能性がある場合は三陰交など一部禁忌。皮膚トラブル・糖尿病性神経障害・抗凝固療法中は必ず専門家へ相談。
施術例(一般化したケース)
ケース1|ホットフラッシュ主体の50歳
- 初診:日中5–8回、夜間発汗で中途覚醒。肩こり強い。
- 方針:週1–2回×4週。百会・内関・合谷・太谿・三陰交+台座灸少量。
- 経過:2週で回数半減、4週で夜間発汗が週1回以下へ。
ケース2|不眠・イライラ主体の48歳
- 初診:入眠30分以上・中途覚醒2–3回、情緒不安定。
- 方針:週1回×8週。神門・内関・百会・三陰交+背部兪穴の軽置鍼、就寝前呼吸法を指導。
- 経過:4週で入眠10–15分へ短縮、8週で中途覚醒がほぼ消失。
よくある質問(FAQ)
Q. どれくらいで効果を感じますか?
A. 早い方で1–2回、多くは3–6回で自覚的変化。安定には8–12週を目安に。
Q. 鍼は痛い?跡は残る?
A. 極細鍼を浅く使うため痛みは最小限。跡は通常残りません。
Q. HRTや薬との併用は?
A. 可能です。医師と情報共有し、副作用や体調の波を見ながら併走します。
Q. 自宅でのお灸は毎日でもOK?
A. 皮膚状態を観察し週2–3回から。熱さを我慢しない・同一点の連続刺激を避けることが安全のコツ。
まとめ|“整える→続ける”で揺らぎに負けない体へ
更年期障害はホルモン変化+自律神経のゆらぎが重なり、症状が多面的に現れます。
鍼灸は全身のバランスを整えつつ、ホットフラッシュや睡眠障害など優先症状にピンポイント対応できる実用的な治療です。
適切な頻度で継続し、生活習慣・医療ケアと組み合わせることで、QOLの底上げが期待できます。
※体調や症状に不安がある場合は、婦人科・内科・睡眠医療の受診、ならびに鍼灸師へのご相談を。
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