鍼灸の施術では、患者に触れる前、刺鍼など無菌操作の前、血液・体液に触れた可能性がある後、患者に触れた後、患者の周辺物品に触れた後に手指衛生を行います。目で見て汚れがあるときは石けんと流水で洗い、汚れが見えないときは速乾性のアルコール製剤による擦式消毒を基本にします。手袋を着けても、必要な場面の手指衛生は省けません。
施術中の「5つのタイミング」とは?
全日本鍼灸学会の「鍼灸安全対策ガイドライン2025年版」は、WHOの考え方を鍼灸の場面に当てはめ、次のタイミングを挙げています。
- 患者に触れる前:問診後に身体に触れて評価するときなど。
- 刺鍼など無菌操作の前:患者に一度触れた後でも、刺鍼の前に改めて手指衛生が必要です。
- 血液・体液への曝露後:血液に触れた、または触れた可能性がある場合。手袋を外した後も手指衛生を行います。
- 患者に触れた後:施術や評価を終えて患者から離れるとき。
- 患者周辺の物品に触れた後:ベッド、シーツ、タオルなどに触れて離れるとき。
これは「一人の患者につき施術前後の2回だけ」という意味ではありません。施術の途中でも、刺鍼など無菌操作へ移る前や、汚染の可能性がある作業の後には、その場面に応じて手指衛生を行います。WHOは外来や訪問などの現場でも、患者と施術者の接点に合わせてこの考え方を適用する資料を公開しています。
手洗いとアルコール製剤はどう使い分ける?
手が目で見て汚れているとき、トイレの後、アルコールでは十分に対応できない微生物に接触した可能性があるときは、石けんと流水で洗います。洗った後は、単回使用のペーパータオルなどで乾かします。目で見て汚れがない場合は、速乾性擦式アルコール製剤を用いることが推奨されています。視覚上、汚れを判別しにくい場合は石けんと流水による手洗いを選びます。
製剤の量や使用方法は製品表示に従い、指先、親指、指の間なども含めて手全体に行き渡らせます。手洗いとアルコール製剤を機械的に毎回重ねる必要はありません。手荒れは衛生操作の妨げにもなるため、日頃の皮膚のケアと製剤の使い方も見直します。
手袋を着ければ、手指消毒を省ける?
省けません。手袋は血液・体液に触れる可能性がある場合などに用いますが、汚染されることがあり、完全な防壁でもありません。使用後は適切に外し、手指衛生を行います。手袋を着けたまま次の患者や別の無菌操作へ移らないでください。学会ガイドラインは、やむを得ず鍼体に触れるときは医療用手袋か指サックを推奨し、施術者の手指に傷がある場合は必ず使用するべきとしています。これらは患者ごとに交換します。手袋の要否は施術内容と曝露リスクに応じ、施設の手順とガイドラインも確認します。
手指衛生だけで感染対策は完結する?
手指衛生は基本ですが、使い捨ての鍼の適切な取り扱い、施術野の消毒、ベッド周囲の清掃、使用済み鍼の処理などと組み合わせて行います。患者や施術者に血液・体液曝露が起きた場合は、手指衛生だけで済ませず、状況に応じた対応が必要です。施術者自身の鍼刺し事故後の初動は鍼刺し事故時の対応と感染予防で確認できます。
よくある質問
患者に触れる前に消毒したら、刺鍼前は省いてよいですか?
間に患者の皮膚や周辺物品に触れるなどした場合は、刺鍼という無菌操作の前に改めて手指衛生を行います。5つのタイミングは、施術の流れに沿って判断します。
毎回、石けんで洗ってからアルコール消毒も必要ですか?
一律に両方を重ねる方法ではありません。見える汚れやトイレ後などは石けんと流水、汚れが見えない場面ではアルコール製剤という使い分けを基本とし、施設の感染対策手順も確認してください。






