鍼灸師が施術中に使用済みの鍼で自分を刺したら、まず患者の安全を確保して作業を止め、傷を流水と石けんで洗い、速やかに医療機関へ相談します。患者の感染症が分からなくても、自己判断で「大丈夫」と終わらせないでください。受傷した時刻、鍼の使用状況、傷の場所と深さ、血液の付着などを記録し、所属する施術所の責任者へ報告します。一人で開業している場合も、受診先と相談先を普段から決めておくことが大切です。
使用済み鍼で刺した直後に行うこと
- 患者の安全を確保して施術を中断する。置鍼中なら患者が動かないようにし、安全に施術を引き継げる人がいれば知らせます。患者を置鍼したまま残して受診に向かわず、引き継ぎ先を確保します。単独で対応する場合は創部の洗浄後、患者の状態に配慮しながら抜鍼と本数確認を安全に終え、速やかに受診します。自分だけで安全に対応できないときは応援を求めます。
- 創部を流水と石けんで洗う。血液を無理に絞り出したり、洗浄を省いて施術を続けたりしません。目などの粘膜に血液が飛んだ場合は、速やかに水などで洗い流して医療機関に伝えます。
- 責任者へ報告し、速やかに医療機関で評価を受ける。一人で開業していて報告先がない場合も、受診を後回しにせず、発生状況を記録して受診先へ伝えます。
厚生労働省の院内感染対策講習会資料は、直後の対応として「患者の安全確保と作業中止」「曝露部位の洗浄」「速やかな責任者への報告」を示しています。全日本鍼灸学会の安全対策ガイドラインは、鍼刺しなどによる血液・体液曝露には適切な曝露後対策を講じるよう勧めています。
医療機関へ伝える情報と、自己判断しないこと
受診時は、いつ、どの鍼で、どの作業中に、身体のどこを刺したか、傷の深さや出血、鍼に血液が付いていたかを伝えます。自分のB型肝炎ワクチン接種歴と抗体検査の記録があれば持参します。患者側の感染症情報は推測せず、患者への説明と同意を得たうえで、医療機関の手順に沿って必要な確認や検査を進めます。患者や受傷者の情報は、関係者以外に広めないようにします。
感染リスクの評価、検査、B型肝炎などの曝露後予防、経過観察の要否は、医療機関が曝露状況と双方の情報を踏まえて判断します。HIVの曝露後予防が必要かどうかも医師の判断です。予防が必要な場合は時間が重要になるため、結果が分かるまで受診を待たないでください。薬を自己判断で開始・中止することは避けます。
未使用の鍼で刺した場合も同じですか?
未使用で滅菌された鍼と、患者に使用した鍼では、血液・体液への曝露の有無が異なります。ただし、刺した鍼の使用状況が曖昧な場合は安全側に扱い、傷の洗浄と受診先への相談を行います。傷が深い、出血が続く、赤み・腫れ・熱感が強まるなどの変化があれば、感染症評価とは別に傷そのものの診察も受けてください。この記事だけで個別の感染リスクや必要な処置は判定できません。
鍼刺し事故を減らすための普段の準備
全日本鍼灸学会のガイドラインは、使用済み鍼を抜去後すぐに耐貫通性のある堅牢な専用容器へ廃棄すること、血液・体液との接触を避けるため適切な個人防護具を使うこと、施術者のB型肝炎ワクチン接種を推奨しています。鋭利物容器は作業場所から無理なく届く位置に置き、使用済み鍼を一時的にトレーや寝台に残さない運用を考えます。
事故が起きてから連絡先を探さなくて済むよう、受診できる医療機関、休日・夜間の連絡方法、施術中の患者への対応、報告記録の書式を決めておきます。鍼の本数確認も別の安全課題です。体位変換前・施術終了前の鍼の本数確認を併せて確認してください。
よくある質問
傷が小さく、出血しなければ受診は不要ですか?
傷の見た目だけで血液・体液曝露の評価はできません。使用済み鍼で刺した場合や状況が不明な場合は、洗浄後に速やかに医療機関へ相談してください。
患者の感染症検査の結果が出てから受診してもよいですか?
結果待ちで受診を遅らせないでください。曝露後予防は時機が重要になる場合があり、検査の要否と同意の取得を含めて医療機関に相談します。
鍼刺しを防ぐために最低限決めておくことは?
使用済み鍼を抜去後すぐに専用容器へ廃棄する流れと、事故時の洗浄・報告・受診先を決めておきます。B型肝炎ワクチンと抗体の記録も確認します。
参考情報
- 全日本鍼灸学会臨床情報部安全性委員会:鍼灸安全対策ガイドライン2025年版(改訂第2版)(職業感染防止対策)
- 厚生労働省掲載・院内感染対策講習会資料:血液体液曝露対策とワクチンプログラム(発生直後の対応)
- 米国CDC:HIV at Work(職業曝露後の速やかな相談)
- 米国CDC:Best Practices for Occupational Exposure to Blood(創部・粘膜の洗浄と医療評価。歯科医療向け資料)






