医療従事者とは?—チーム医療で患者を支える多職種の役割と連携

はじめに

「医療従事者って誰のこと?」「医師と看護師以外にはどんな職種があるの?」「鍼灸師は医療の現場でどんな役割を果たすの?」
医療は、ひとりの専門家だけで完結するものではありません。診断、治療、リハビリ、日常生活のサポート、再発予防、メンタルケアまで、さまざまな専門職がチームとして関わることで、患者は回復に向かうことができます。

この記事では、医療従事者の定義、役割、具体的な業務内容、資格取得のプロセス、そしてチーム医療の重要性をわかりやすく解説します。
鍼灸師や柔道整復師など東洋的アプローチを行う職種も含めて、「患者を支える多職種連携」の全体像がわかる内容です。


医療従事者とは?

医療従事者とは、病気やケガの治療、リハビリテーション、予防ケア、健康管理、生活支援、心のケアなどを通じて、患者の健康と生活の質(QOL)を支える専門職の総称です。

代表的な医療従事者には以下のような職種があります。

  • 医師
  • 看護師
  • 薬剤師
  • 理学療法士・作業療法士などのリハビリ専門職
  • 臨床検査技師・放射線技師などの検査・画像診断の専門職
  • 鍼灸師・柔道整復師などの徒手療法・東洋医学系の専門職
  • 管理栄養士・臨床心理士・ソーシャルワーカーなどの支援職 など

重要なのは、これらの医療従事者がそれぞれの専門性を活かしながら「チーム医療」として機能していることです。
患者は、ひとつの病気だけを診ればいいわけではなく、生活背景・精神面・社会復帰まで含めてサポートが必要になるからです。


医療従事者の使命

医療従事者全体に共通する使命は、「患者に安全で適切な医療・ケアを提供し、回復と健康維持を支えること」です。
その中には、次のような役割が含まれます。

  • 病気・ケガの診断と治療
  • 痛みや不安の軽減
  • リハビリテーションと機能回復
  • 生活習慣やセルフケアの指導(予防医療)
  • 再発予防・健康寿命の延伸
  • 患者と家族の精神的サポート
  • 退院後・在宅での生活を見据えた支援

医療従事者は「治す」だけでなく、「支える」「予防する」「生きやすさを取り戻す」ことにも大きく関わっています。


主な医療従事者の役割と業務内容

ここからは、主要な医療従事者の仕事と役割を、チーム医療の視点でわかりやすく紹介します。

1. 医師|診断と治療のリーダー

医師(ドクター)は、診断と治療の中心的な役割を担う専門職です。

主な業務:

  • 診断と治療計画の立案
    └ 検査結果や問診から病気の原因を特定し、治療方針を決める
  • 処置・手術の実施
    └ 外科手術・各種処置などを行い、直接的に病変へアプローチする
  • 患者・家族への説明
    └ 病状・治療法・リスク・予後(今後の見通し)をわかりやすく伝える

医師はゴールを示し、他の医療従事者と協力して患者の回復プロセス全体を指揮します。


2. 看護師|患者に最も近い存在であり、現場の要

看護師は、医療現場で患者と最も長い時間を共有し、心身のケアを行う専門職です。単に「医師のサポート」ではなく、患者の安全と安心を守るキーパーソンです。

主な業務:

  • 観察と記録
    └ 体温・血圧・脈拍などのバイタルサインをチェックし、体調の変化をいち早く捉える
  • 治療や処置の補助
    └ 点滴・投薬管理・包帯交換・採血など
  • 精神的サポート
    └ 不安をかかえる患者や家族に寄り添い、安心感を与える
  • 生活指導
    └ 退院後のケア方法や薬の飲み方、再発予防の生活習慣をアドバイス

看護師は「患者の今の状態を正確に把握して医療チームに伝える」という橋渡し役も担います。


3. 薬剤師|薬の専門家として治療の安全性を守る

薬剤師は、薬のプロフェッショナルです。単に薬を渡すだけではありません。

主な業務:

  • 調剤
    └ 処方箋に基づき、正しい薬・正しい量を正確に準備する
  • 服薬指導
    └ 飲み方・タイミング・副作用・飲み合わせをわかりやすく説明する
  • 薬剤管理
    └ 複数の薬を服用している患者に対し、リスクの高い併用がないか確認し、医師へ提案することもある

薬剤師が介入することで、薬の副作用を最小限にし、治療効果を最大化します。


4. 理学療法士(PT)|身体機能の回復をサポートする専門職

理学療法士は、立つ・歩く・動くといった基本的な身体機能の回復・維持をサポートするリハビリ専門職です。

主な業務:

  • リハビリ計画の作成
    └ けが・手術後・脳血管疾患後など、状態に合わせた回復プランを立てる
  • 運動療法・可動域訓練
    └ 関節や筋肉の動きを改善して、痛みを軽減し、動ける身体を取り戻す
  • 日常生活への復帰支援
    └ 歩行練習、立ち上がり動作の練習、転倒予防の指導など

理学療法士は「動ける身体」を取り戻すプロです。術後や高齢者ケアに欠かせません。


5. 作業療法士(OT)|「生活そのもの」を取り戻すリハビリの専門家

作業療法士は、日常生活動作(ADL)に焦点を当てたリハビリの専門職です。ゴールは「自分らしい生活を送れるようにすること」。

主な業務:

  • 食事、着替え、入浴、トイレ動作などの訓練
  • 手・腕の機能改善トレーニング
  • 補助具・自助具の提案と使用指導
  • 認知機能サポート(高齢者や脳血管障害後など)

身体機能だけでなく、その人の「生活の質(QOL)」に直結する支援を行います。


6. 臨床検査技師|病気を“見える化”するデータの専門職

臨床検査技師は、身体の内部状態を数値やデータで明らかにする専門職です。

主な業務:

  • 血液・尿・細胞などの検体検査(感染・炎症・貧血などの状態を確認)
  • 心電図・超音波(エコー)などの生理検査
  • 検査データの報告と管理

臨床検査技師が正確なデータを出すことで、医師は的確な診断と治療方針を決めることができます。


7. 診療放射線技師|画像診断のスペシャリスト

診療放射線技師は、X線・CT・MRIなどの医療画像を扱う専門職です。

主な業務:

  • 画像検査の実施
    └ 正確なポジショニングで、診断に必要な画像を撮影
  • 放射線の安全管理
    └ 不必要な被ばくを避けながら検査を進める
  • 緊急時の外傷・内出血の早期発見に貢献

目に見えない体内の情報を「見える形」で医師に届ける役割です。


8. 鍼灸師|自然治癒力を引き出す東洋医学のスペシャリスト

鍼灸師は、東洋医学の理論に基づき、経絡・ツボに鍼や灸でアプローチする専門職です。
痛みのケア、体質改善、ストレス緩和、機能回復サポートなど、多面的なサポートが可能です。

主な業務:

  • 鍼・灸による施術
    └ 血流改善、自律神経調整、筋緊張の緩和、疼痛軽減を目指す
  • 慢性症状への対応
    └ 肩こり、腰痛、頭痛、冷え、疲労感など
  • 体質に合わせたケアプラン
    └ 症状だけでなく、睡眠・食事・ストレス状態まで含めてサポート
  • がん治療や慢性疼痛ケアの補完的サポートとして用いられることもある

鍼灸師は、薬に頼りすぎない痛みの緩和や、心身のバランス調整を得意とし、チーム医療のなかで「負担をやわらげるケア」を担います。


9. 柔道整復師|外傷(捻挫・打撲・脱臼など)に対応する手技療法の専門職

柔道整復師は、主にケガ(捻挫・打撲・肉離れ・脱臼・骨折など)に対する保存療法を扱う専門職です。
手術や薬に頼らず、人体の治癒力を活かして機能回復をサポートする点が特徴です。

主な業務:

  • 整復・固定
    └ 関節や骨のズレを正しい位置に戻し、包帯や副木で安定させる
  • スポーツ外傷のケア
    └ 怪我からの早期復帰サポート、フォームの改善指導など
  • リハビリ・再発予防のための運動指導

スポーツ現場や整骨院などで活躍し、地域の身近な“からだの相談役”にもなっています。


なぜチーム医療(多職種連携)が重要なのか?

医療従事者は、それぞれの専門性を持ちながら、連携してはじめて最大の力を発揮します。これが「チーム医療」です。

チーム医療によるメリット:

  1. 回復が早まる
    例:医師が治療を行い、看護師が日常ケアをし、理学療法士が歩行機能を回復させ、鍼灸師が痛みと緊張をやわらげる。役割分担が相乗効果を生む。
  2. 患者一人ひとりに合ったケアができる(個別化医療)
    生活環境、仕事、スポーツ歴、ストレスの状況まで踏まえた「あなた専用のケアプラン」が作られやすくなる。
  3. 再発予防・健康維持まで支えられる
    治療して終わりではなく、退院後・在宅・職場復帰までを見据えて、予防とセルフケアの支援ができる。
  4. 精神的な安心感が高い
    「複数の専門家が自分のことを見てくれている」という安心感は、治療への前向きさやリハビリの意欲を引き出します。

医療従事者になるには?資格取得の流れ

多くの医療職は「国家資格」です。基本的なプロセスは次のようになります。

  1. 教育課程への進学
    • 医学部、薬学部、看護学部、リハビリ系学部、鍼灸・柔道整復の専門学校など
    • 解剖学、生理学、病態生理、衛生学、医療安全、臨床技術などを学ぶ
  2. 臨地・臨床実習
    • 病院やクリニックなどの現場で、実際の患者と向き合いながら技術と倫理観を身につける
    • コミュニケーションや安全管理も重視される
  3. 国家試験の受験
    • 職種ごとに定められた国家試験を受験し、合格を目指す
  4. 免許の取得・医療現場での勤務開始
    • これにより正式に「医療従事者」として働くことができる
  5. 継続教育・専門分野へのステップアップ
    • 医療の知識・技術は常に進化します
    • たとえば、専門看護師、認定理学療法士、スポーツ分野に特化した柔道整復師など、さらに専門性を深める道が用意されています

つまり、医療従事者は「資格を取って終わり」ではなく、学び続ける職業です。それが安全性と信頼性につながります。


医療従事者として働くうえでの注意点・課題

ここは現場で特に重要になる部分です。

1. 肉体的・精神的な負担が大きい

当直・夜勤・急な呼び出し・命に関わる判断など、プレッシャーは小さくありません。
セルフケア、チーム内でのサポート、メンタルケアの仕組みが大切です。

2. コミュニケーションが結果を左右する

患者と信頼関係を築く力、家族へ説明する力、多職種と情報共有する力が欠かせません。
特にリハビリ系・鍼灸などは「患者さんの感じている痛みや不安を聞き出す力」も重要です。

3. 倫理観と責任感

患者のプライバシーを守ること、無断の行為をしないこと、勝手な判断で標準治療を中断させないことなど、医療倫理に基づいた行動が求められます。


まとめ|医療はひとりではできない

医療従事者とは、医師や看護師だけではなく、薬剤師、リハビリ職、検査・画像の専門職、鍼灸師、柔道整復師など、多職種が協力して患者を支える存在です。

  • 医師が診断や治療の方針を決める
  • 看護師が日常のケアと心理的サポートを行う
  • リハビリ専門職が「動ける身体」を取り戻す
  • 鍼灸師や柔道整復師が痛みや機能低下を和らげ、回復と予防につなげる
  • 薬剤師が薬の安全性を確保する
  • 技師が正確なデータと画像で診断を支える

この「チーム医療」の力が、患者の回復、再発予防、そして生活の質の向上に直結します。
つまり、医療従事者とは“病気を治すプロ”であると同時に、“患者の人生を支えるプロ”でもあるのです。

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