はじめに|鍼灸と“呼吸の質”
呼吸は無意識に続く生命活動ですが、呼吸の質(深さ・リズム・鼻呼吸)は自律神経や姿勢、痛みの知覚にまで影響します。鍼灸臨床では、頚肩こり・頭痛・不眠・不安・胃腸の不調と関連が深く、施術前後の簡単な呼吸介入が体感を底上げします。
呼吸とは?外呼吸と内呼吸
- 外呼吸:鼻・咽頭・気管支・肺で行うガス交換。肺胞で酸素(O₂)→血液、二酸化炭素(CO₂)→呼気へ。
- 内呼吸(細胞呼吸):運ばれたO₂を細胞のミトコンドリアが使い、ATPを産生。発生したCO₂は再び肺へ。
臨床ワンフレーズ
「吸って酸素を入れる+吐いて二酸化炭素を出す。吐く質が上がるほど次の一息が入りやすく、交感→副交感へ切り替わりやすくなります。」
呼吸に関わる主要器官
- 鼻:温湿潤&異物除去。鼻呼吸=フィルター機能+一酸化窒素(NO)の産生で肺血流もサポート。
- 横隔膜:主呼吸筋。収縮で胸腔が広がり吸気、弛緩で呼気。腰背部痛・胃部不快とも関連。
- 肋間筋・腹筋群:肋骨運動と呼気の質に関与。
- 姿勢筋(腸腰筋・多裂筋など):猫背・反り腰は換気効率を落とすため介入対象。
呼吸が体に与える影響(要点)
- 酸素供給と代謝:O₂不足は倦怠・集中低下に直結。
- 自律神経:速浅呼吸→交感優位/ゆっくり長い呼気→副交感優位。
- 情動安定:呼気延長は不安・疼痛の過覚醒を鎮めやすい。
- pHバランス:過換気は呼吸性アルカローシスを招きやすく、手足のしびれ・めまいに注意。
呼吸法の種類と“現場での使い分け”
1. 腹式呼吸(横隔膜呼吸)
- 方法:鼻から4秒吸う→下腹が軽く前に、口or鼻で6秒吐く。
- 狙い:副交感優位、腹圧・体幹安定、肩首の過緊張軽減。
- 適応:不眠、首肩こり、ストレス性胃腸症状。
2. 胸式呼吸(速い活動時)
- 方法:胸郭を広げて吸う。
- 注意:日常で慢性的な胸式優位は浅速化の原因。リセット用に腹式へ戻す。
3. 片鼻呼吸(ナディ・ショーダナ)
- 方法:右手で右鼻を閉じ左から吸う→左右切り替え。左右交互×5サイクル。
- 効果感:集中力アップ、過覚醒の鎮静。頭痛・不安傾向に相性○。
4. 4-7-8呼吸法(入眠・急性ストレス)
- 方法:4秒吸う→7秒止める→8秒吐く×4回。
- 注意:止息が苦しい人は4-2-6へ短縮し、めまい・妊娠中は無理に止めない。
施術室トーク例
「吐く8秒を長くできると首の力が抜けやすくなります。針を抜く前に2セットだけ一緒にやりましょう。」
呼吸の質を上げる“姿勢×環境×習慣”
姿勢
- リセット3点:坐骨で座る/みぞおち軽く引き上げ/鎖骨を横に広げる。
- 肋骨ケア:背臥位でタオルを下部肋骨に回し、吸気でタオルを外へ押す練習。
環境
- 鼻呼吸ルートの確保:乾燥時は加湿、就寝時は口テープは安全第一で最少幅(推奨は専門家の指導下)。
- 温度:就寝90分前の入浴(38–40℃、10–15分)で副交感へ。
習慣
- 歩行:食後10分の穏やかな散歩→横隔膜の可動改善。
- ミニ休憩:60分ごとに30秒の呼気延長(4-2-6×3回)で脳疲労をリセット。
鍼灸×呼吸:臨床での導線づくり
- 評価:呼吸数(安静時12–18/分目安)、肩で吸ってないか、吐き切りの可否、口呼吸の有無。
- 施術設計:
- 頸肩こり→斜角筋/胸鎖乳突筋の過緊張+胸郭可動+腹式練習
- 不眠→背部~腹部の鎮静配列+4-7-8を2セット
- 胃腸不調→腹部の軽刺激+“吐いてから吸う”を徹底
- ホームケア処方(配布用ミニカード)
- 朝:鼻で4-2-6×3
- 仕事合間:片鼻呼吸×3サイクル
- 就寝前:4-7-8×4+部屋を暗めに
安全上の注意
- 呼吸困難・胸痛・強いめまいは中止し医療機関へ。
- 喘息/COPD/妊娠中/心疾患:止息を避け、短いカウントで。
- 過換気傾向:吐く割合を増やす(例:3吸→6吐)、紙袋呼吸の独断実施は避ける。
- 口テープ:鼻閉・睡眠時無呼吸の疑いがある人は自己判断で行わない。
1週間の“呼吸リセット”プラン
- Day1–2:朝と就寝前に腹式4-2-6×5
- Day3–4:日中の集中切れ対策に片鼻×5サイクル
- Day5–6:就寝前4-7-8×4+背部の温罨法10分
- Day7:呼吸数・寝入り・肩こりの自己評価を記録
よくある質問(FAQ)
Q. すぐ効果が出ません。
A. 1〜2週間の継続で“寝つき・肩の力み・胃の重さ”の変化に気づく方が多いです。記録アプリや紙で見える化を。
Q. 腹がうまく動きません。
A. 仰向けで片手を下腹・胸に置き、下腹だけ上下する練習から。吐き切る→自然に入るを優先。
Q. 運動前はどれがおすすめ?
A. 胸郭の拡張+腹式。ウォームアップに鼻4吸→口4吐×10で胸郭リズムを整えます。
まとめ
呼吸は、外呼吸でのガス交換と内呼吸でのエネルギー産生が連動する全身の基本インフラです。ゆっくり長い呼気と鼻呼吸は副交感神経を高め、痛みの過覚醒や不安、不眠を鎮めやすくします。鍼灸臨床では、評価(呼吸数・口鼻・肩の代償)→施術(胸郭・横隔膜の可動)→短時間の呼吸ドリル→ホームケア(4-2-6/4-7-8/片鼻)の流れを3分で実装するだけで、施術体感と再現性が向上します。安全面では止息を無理せず、吐く割合を増やす原則で段階的に。“吐いてから吸う”――この一手が、患者の毎日を静かに変えていきます。す。スを上手に活用して、腸内環境を整え、全身の健康をサポートしていきましょう。
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