1. 伝音性難聴とは?
伝音性難聴とは、外耳(耳の入り口〜耳道)や中耳(鼓膜〜耳小骨)で音の伝わり方が妨げられることで起こる難聴です。
通常、音はこうして脳に届きます:
- 音が耳に入る
- 鼓膜が振動する
- 耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)がその振動を増幅して内耳に伝える
- 内耳で振動が電気信号に変換され、脳へ送られる
伝音性難聴では、この「2〜3の区間」でトラブルが起こっている状態です。
そのため、
- 音量が小さく聞こえる
- こもったように聞こえる
- 相手の声がはっきりしない
といった“ボリュームと明瞭さの低下”が出やすくなります。
良いニュースとして、伝音性難聴は原因を取り除くことで改善できるケースが比較的多い難聴です。だからこそ、早めの受診と正確な原因の特定がとても重要です。
2. 伝音性難聴の主な原因とメカニズム
伝音性難聴は「音の通り道がふさがる・動きが悪くなる」ことが原因です。代表的な原因を整理します。
2-1. 耳垢の詰まり(耳あか栓塞)
耳垢が耳道いっぱいに詰まると、音の通り道が物理的にふさがれます。
体質や耳掃除のクセ(綿棒で押し込んでしまうなど)によって、耳垢が固まりやすい方もいます。
注意点:
- 無理に自分でかき出そうとすると外耳道や鼓膜を傷つけるリスクがあります。
- 耳鼻咽喉科で安全に除去してもらうのが基本です。
2-2. 外耳道異物
小さなビーズ・砂・虫など、外耳道に異物が入ることで音の伝達が遮られることがあります。
幼児〜小児では「耳に物を入れてしまう」ことが原因のことも。
これは自分で取ろうとして押し込んでしまうとさらに悪化するため、医療機関での除去が推奨されます。
2-3. 中耳炎(特に滲出性中耳炎など)
中耳(鼓膜の奥の小部屋)に炎症や感染が起こると、液体や膿がたまり、鼓膜の動きが制限されます。
・鼓膜が十分に振動しない
・耳小骨がスムーズに動かない
→ 結果として音が伝わりにくくなります。
小児に多いタイプですが、大人でも起こります。繰り返す場合は慢性化し、聴力に影響が残ることもあります。
2-4. 耳管のトラブル(耳管狭窄・耳管機能不全)
耳管は、中耳と鼻・のどをつなぐ細い管で、耳の中の圧力を調整する役割を持ちます。
この耳管がうまく開閉しないと中耳内の圧が乱れ、耳がつまった感じや「こもる感じ」が出やすくなります。これも音の伝達を妨げます。
「飛行機の後から耳がつまって抜けない」なども、耳管機能が絡むことがあります。
2-5. 鼓膜の損傷
鼓膜に穴が開く(鼓膜穿孔)・硬くなる(鼓膜硬化)などのダメージがあると、鼓膜が十分に振動できなくなり、音のエネルギーが内耳まで届きません。
原因としては:
- 強い外傷(耳を強く打った・耳かきで傷つけた)
- 繰り返す中耳炎
- 急激な圧力変化 など
鼓膜は自然に閉じることもありますが、場合によっては外科的に修復(鼓膜形成術)が検討されます。
2-6. 耳小骨の異常
耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)は、耳の中で音を“てこ”のように伝えてくれる超小型の骨です。
この耳小骨が
- 外傷で損傷
- 硬く固定されて動きにくくなる(耳小骨硬化症など)
といった状態になると、音の振動を増幅できず、伝音性難聴につながります。
耳小骨硬化症は、遺伝的な要因が関わることもあるといわれています。
3. 伝音性難聴のよくある症状
伝音性難聴では、次のようなサインが現れやすいです。
3-1. 音が小さく聞こえる
- 会話が全体的にこもって聞こえる
- テレビやラジオの音量をどんどん上げてしまう
- 「声は聞こえるけど言葉がはっきりしない」と感じる
特に静かな部屋より、少し雑音がある環境だと、より聞き取りにくくなります。
3-2. 自分の声が変に聞こえる
自分の声が「頭の中で響く」「こもって聞こえる」「普段と違って聞こえる」と感じることがあります。耳がふさがっている感覚とセットで起こることが多いです。
3-3. 耳の閉塞感・圧迫感
耳が詰まったような、こもったような感じ(耳閉感)。
「耳に何か入っている気がする」「水が入って抜けない感じ」という訴えになることもあります。
3-4. 音の歪み
音質が変わって平たく聞こえたり、複雑な会話や早口が特にわかりづらくなることがあります。
※急に症状が悪化した場合、痛み・めまい・耳鳴りなどの症状を伴う場合は、早めの医療機関受診が推奨されます。
4. 伝音性難聴はどう診断される?検査の流れ
伝音性難聴は耳鼻咽喉科で評価・診断されます。主な検査は以下のとおりです。
4-1. 耳鏡検査
耳の中を直接のぞき、耳垢の詰まりや外耳道異物、鼓膜の状態(赤い・腫れている・穴が開いているなど)を確認します。
まずここで原因がその場でわかることも珍しくありません。
4-2. 純音聴力検査(オージオメトリー)
いろいろな高さ(周波数)の音をどの大きさ(デシベル)なら聞き取れるか調べる検査です。
“どの音域がどれくらい聞こえにくいか”がグラフ化され、難聴の程度がわかります。
4-3. ティンパノメトリー
鼓膜の動きや中耳の圧力状態をチェックする検査です。中耳炎や耳管機能の問題、鼓膜穿孔の有無などを詳しく評価できます。
4-4. 音叉試験
耳の前や骨(耳の後ろの骨など)に当てたときの聞こえ方を比べ、空気伝導と骨伝導の差を見る簡易検査です。
伝音性難聴か、感音性難聴かを見分ける際にとても役立ちます。
5. 伝音性難聴の治療法
伝音性難聴の治療は「原因を取り除く」ことが中心です。代表的なアプローチを紹介します。
5-1. 耳垢・異物の除去
耳垢や異物が原因のときは、耳鼻咽喉科で安全に取り除くことで、すぐに聴こえが改善することもあります。
自己流で耳かきを深く入れる・ピンセットでつまむ…は、鼓膜損傷のリスクがあるためNGです。
5-2. 薬物療法(中耳炎・耳管トラブルなど)
中耳炎や耳管の炎症が原因の場合は、抗生物質・抗炎症薬などで炎症や感染を抑え、鼓膜や中耳の状態を整えます。
炎症が引けば、鼓膜の振動が戻り、聞こえ方が改善することが期待できます。
耳管機能不全(耳がこもる感じ)には、鼻や喉のケアも含めた治療が行われることがあります。
5-3. 手術
原因が構造的な場合には、手術が検討されることがあります。
- 鼓膜形成術(鼓膜の修復)
鼓膜に穴が開いている場合、鼓膜を再建して振動を取り戻します。 - 耳小骨再建術
耳小骨が損傷・硬化している場合、耳小骨を修復・置換して音の伝達を改善します。
これらは専門の耳鼻咽喉科(耳科領域)で対応され、術後に聴力の改善が期待できる場合があります。
5-4. 補聴器
原因の完全な改善が難しい場合や、手術では改善しきれない場合、補聴器が有力な選択肢になります。
補聴器は単に音を大きくするだけではなく、
- 聞き取りたい「声」を強調
- 周囲の雑音を抑制
- 個人の聴力に合わせた微調整
が可能な機器が増えています。
「まだ若いから」「そこまでじゃないから」と遠慮せず、早めに補聴器を活用することで、日常生活・仕事・人間関係のストレスが大きく軽減します。
6. 日常生活でできる工夫とサポート
治療とあわせて、「聞こえやすい環境づくり」もすごく大事です。
6-1. 聞き取りやすい環境に整える
- 会話はできるだけ静かな場所で
- 相手の口元や表情が見える位置で話してもらう
- 背景音(テレビ・エアコンの音など)を減らす
※周囲の人に「ゆっくり・はっきり・正面から」話してもらうだけでも、聞き取りの負担は大きく下がります。
6-2. コミュニケーション方法を一緒に工夫する
- 大事な情報はメモにしてもらう
- 指差し・ジェスチャーなど視覚情報も使う
- 「急に後ろから話しかけないで、正面から話して」と依頼する
本人だけで頑張らせず、周囲が協力することが安心感につながります。
6-3. ストレスを溜めない
「聞こえないこと」は想像以上にストレスです。
そのストレスはさらに集中力を下げ、会話の理解を難しくします。
・深い呼吸、短い休憩、入浴などのリラックス
・睡眠リズムを整える
・緊張で肩・首が固まっている場合はほぐすケアを取り入れる
こういったリラクゼーションは、聞き取り時の“身構えすぎ”をやわらげるサポートになります。
鍼灸は、首肩の緊張やストレス過多による自律神経の乱れをやわらげ、リラクゼーションを促すケアとして利用されることがあります。特に耳閉感や耳鳴りでストレスが強くなっている方など、気持ちの負担を軽くする目的で併用されるケースがあります。ただし、急激な聴力低下や痛み・めまいがある場合は、まず耳鼻咽喉科での診断が最優先です。
6-4. 定期的なチェックを続ける
- 「なんとなく聞きにくいけど放置」がいちばん危険です
- テレビの音量が上がってきた
- 子どもが聞き返しをよくする
- 片耳だけ聞こえにくい
こうしたサインは、早めに相談の目安になります。
7. まとめ:伝音性難聴は「放置せず、原因チェック」で守れる聴力がある
伝音性難聴は、外耳や中耳で音の伝わりが妨げられることで起こる難聴です。
耳垢の詰まり・中耳炎・耳管のトラブル・鼓膜の損傷・耳小骨の異常など、原因はさまざまですが、多くのケースでは原因に合わせた処置・薬・手術・補聴器の調整によって、聞こえの改善や日常生活の負担軽減が期待できます。
大切なのは、次の3つです。
- 「年齢のせい」と決めつけないで早めに耳鼻咽喉科で診てもらう
- 自己流で耳をいじりすぎない(特に綿棒・ピンセットNG)
- 周囲と協力しながら、聞きやすい環境をつくる
聞こえにくさは、生活の質や心の元気さにも直結します。
少しでも「前より聞こえづらい」「耳が詰まる感じが続く」と感じたら、我慢せず専門家に相談しましょう。早期対応こそ、聴力を守るいちばんの予防策です。
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