慢性疼痛の原因と治療法—痛みのメカニズムと上手に付き合う方法を紹介

慢性疼痛とは?定義と全体像

慢性疼痛は3か月以上持続または反復する痛みを指し、生物学・心理・社会的要因が絡み合う“疾患”として捉えられます。世界人口の約2割に見られるとされ、診断・治療・リハビリを要する独立した臨床課題です。


主なタイプ(臨床での見立てに役立つ分類)

  • 神経障害性疼痛:神経の損傷・疾患が原因(帯状疱疹後、糖尿病性、坐骨神経痛など)。焼ける・しびれる・電撃痛が特徴。
  • 筋骨格系疼痛:筋・腱・関節などの機械/炎症由来(慢性腰痛、変形性関節症、筋膜痛など)。
  • 内臓性疼痛:内臓器の病態に伴う鈍痛・広がる痛み(IBS、子宮内膜症など)。
  • 慢性一次性疼痛:原因病変で説明できない、または痛みが不釣り合いに持続・拡大するタイプ(線維筋痛症など)。NICEは“患者中心の評価と非薬物介入の活用”を推奨。

痛みのメカニズム(なぜ長引くのか)

  1. 末梢の微細損傷や炎症 → 痛み信号の入力が増加
  2. 脊髄レベルでの感作 → 痛み閾値低下・“風が当たっても痛い”
  3. 脳でのネットワーク変化 → 注意・情動・期待が痛みを増幅
    こうした生物心理社会モデルに立つ包括的ケアが有効とされています。

診断のポイント

  • 詳細な問診(部位/性状/増悪因子/睡眠/活動度/心理ストレス)
  • 身体診察+必要に応じて画像(MRI/CT)や神経伝導・筋電図
  • 心理評価(不安・抑うつ・恐怖回避・災害化思考)
  • 赤旗:発熱、急速な神経脱落、がん/感染の疑い、重度外傷 等は速やかに専門医へ。
    NICEは、タイプ同定と患者参加型の意思決定を基本に据えています。

治療:エビデンスにもとづく多面的アプローチ

1) 非薬物療法(第一選択の中核)

  • 運動療法/活動量の段階的拡大(ペーシング):筋骨格系の痛みでは中核介入。
  • 認知行動療法(CBT):痛みと感情の悪循環を断ち、機能とQOLを改善。近年の総説でも有効性が支持。
  • 多職種連携型リハ(MBR):慢性腰痛で痛み・機能の改善に有効。
  • 鍼灸:慢性疼痛に対し偽鍼・通常ケアより有意の効果、かつ持続効果を示す個別患者データ・メタ解析あり。補完療法として計画的に併用。
  • ガイドラインの方向性:慢性一次性疼痛では、運動・心理的アプローチ・鍼を含む非薬物介入を優先。

2) 薬物療法(目的は“痛みの軽減と機能改善”)

  • NSAIDs/アセトアミノフェン:症例ごとに短期・必要最小限で。
  • 神経障害性疼痛SNRI(デュロキセチン)/三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)/ガバペンチノイド(ガバペンチン/プレガバリン)が第一選択。単剤で不十分なら早期スイッチ/併用も検討。
  • オピオイド:慢性非がん性疼痛では慎重適応。CDC 2022指針は非オピオイドを優先し、投与時は最少量・短期間、合併症リスク評価・モニタリングを求めています。

3) 手技・介入

  • 神経ブロック:診断的/治療的に有用な症例あり。長期管理は多面的介入と併用。
  • 脊髄刺激など:難治例で専門施設にて適応検討。

鍼灸の位置づけ(臨床での使い方)

  • 適応:慢性腰痛・変形性関節症・頸部痛・慢性頭痛・筋膜性疼痛などでエビデンス。運動療法・CBTと併用し、痛みの低減→活動拡大を後押し。
  • 機序の仮説:内因性オピオイド、セロトニン/ノルアドレナリン系、自律神経/血流調整、下行性抑制の賦活。
  • 安全性:重篤な有害事象は稀だが気胸・感染などの報告あり。解剖学・衛生・説明と同意を徹底(WHOベンチマーク参照)。

生活戦略:痛みと“上手に付き合う”実践リスト

  • 睡眠の最適化:就寝時刻の固定、光/カフェイン管理、リラックスルーティン。
  • 活動のペーシング:痛みゼロまで休むのではなく、できる範囲で小刻みに動く。
  • ストレス対策:腹式呼吸・マインドフルネス・短時間瞑想を日課に(CBTと親和)。
  • 栄養と体重管理:炎症負荷を下げる食習慣、たんぱく質/微量栄養素の確保。
  • チームで支える:主治医、理学療法士、鍼灸師、心理職が共通目標(機能改善・QOL)で連携。

鍼灸師向けミニプロトコル(評価→介入→再評価)

  1. 初期評価:痛み日誌・NRS、恐怖回避、可動域・筋機能、睡眠/活動度。
  2. 目標設定:短期(痛み/睡眠)、中期(活動量/歩数)、長期(復職・趣味再開)。
  3. 介入:痛源/関連筋の局所+遠隔調整、必要に応じて低周波鍼通電、家庭でのセルフケア(軽運動・呼吸法)。
  4. 再評価:2–4週ごとに指標で見直し、運動/CBT/医科との連携強化。

免責:本記事は教育目的です。個別の診断・処方は必ず主治医の判断に従ってください。


まとめ

慢性疼痛は3か月以上続く複合的な痛みで、タイプ別の見立てと多面的アプローチが鍵。運動・CBT・多職種連携に鍼灸を補完として組み合わせ、痛みの軽減だけでなく機能回復と生活の再構築を目標に進めるのが、エビデンスとガイドラインが示す最適解です。

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