1. 貝原益軒とは? ― 予防医学の祖
「腹八分」「医は仁術なり」で知られる貝原益軒(かいばら えきけん)は、1630年(寛永7年)福岡藩士の家に生まれた江戸時代中期の儒学者・医師・博物学者です。
85歳まで生きた益軒は、晩年まで筆を執り続け、健康・教育・道徳・自然科学など多分野にわたる著作を残しました。
特に代表作『養生訓』は、現代のウェルビーイング(well-being)やセルフケア思想の源流として再評価されています。
2. 貝原益軒の主な著作
📘 養生訓(ようじょうくん)
益軒の代表作であり、日本初の生活養生書です。
内容は、規則正しい生活・節度ある食事・心の安定・自然との調和など、健康維持に必要な日常実践を説いています。
「食は八分を守るべし」
「怒り・憂い・驚きを避け、心を静かに保つこと」
これらの教えは、自律神経の安定・免疫調整・長寿といった、現代の健康科学にも通じる思想です。
🌿 大和本草(やまとほんぞう)
日本固有の植物・動物・鉱物を体系的にまとめた博物学書。
それまで中国依存だった薬学体系を、日本の風土に合わせて再構築しました。
👉 現代の「和漢薬」「薬膳」の発展に影響を与えたとされています。
💊 本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)
中国の名著『本草綱目(李時珍)』を基にした日本版薬草学書。
薬草の効能・採取時期・調整法を詳細に記述し、臨床鍼灸や漢方治療の理論的基礎を築きました。
鍼灸師が用いる「気血を整える食養生」「体質別薬草療法」の考え方の原点でもあります。
3. 貝原益軒の思想と哲学
🧠 1. 儒学に基づく「徳と健康の一致」
益軒は儒学者として「徳を磨くことが健康につながる」と考えました。
道徳的な生き方(正直・節制・感謝)は、心の安定と身体の調和をもたらすと説いています。
⚖️ 2. 実践主義 ― 学問は生活に活かしてこそ意味がある
「知識は行動によって初めて価値を持つ」とする益軒の姿勢は、現代の**Evidence-Based Practice(実践に基づく知識)**の原点ともいえます。
🕊 3. 心身一如 ― 精神と身体の調和
益軒は、「心の乱れが身体を病ませる」と考え、ストレス管理・感情コントロールを健康維持の核心に位置付けました。
この思想は、東洋医学の心身一如・気血調和の概念と完全に一致しています。
4. 医学と健康への貢献
🩺 未病(みびょう)への洞察
益軒は「病気になる前に手を打つこと」の重要性を説きました。
これは東洋医学の基本理念「治未病(ちみびょう)」の実践的説明であり、鍼灸における予防施術・体質改善治療の思想的基盤です。
「病を治すより、病を防ぐを良しとす」
🪡 鍼灸・漢方への理論的影響
- 『養生訓』における節度・食養生・心の調整は、鍼灸の「気血調整」「五臓のバランス」の考え方と同質。
- 『大和本草』『本草綱目啓蒙』は、経絡と薬草の対応関係を学ぶ基礎資料となった。
- 「温故知新」の精神で、西洋医術が入る前の純日本的東洋医学の完成形を提示した。
5. 晩年と後世への影響
貝原益軒は85歳まで健康を保ち、自らの理論を実践して生涯を終えました。
その後も『養生訓』は庶民の間で広く読まれ、「長生きの秘訣書」として江戸から明治まで愛読され続けました。
現代では、益軒の思想は以下の分野で再評価されています。
- ✅ 東洋医学・鍼灸学:体質改善・心身調和の基礎理論
- ✅ 予防医学・健康教育:生活習慣病予防・ストレスケア
- ✅ ウェルビーイング研究:心理的幸福と身体健康の統合モデル
6. 鍼灸師が学ぶべき貝原益軒の3つの教え
| 教え | 現代の臨床への応用 |
|---|---|
| ① 節度と調和の生活 | 食事・睡眠・運動のバランス指導に活用できる |
| ② 心身一如の思想 | 自律神経・感情ケアを含む全人的アプローチの根拠 |
| ③ 未病を治す実践 | 定期施術やセルフケア提案の理論的支柱になる |
💬 鍼灸師にとって、『養生訓』や貝原益軒の思想は「施術+生活指導」の両輪を支える貴重な哲学的資産です。
7. まとめ:貝原益軒の教えを現代に生かす
貝原益軒は、医学・教育・自然科学を横断的に融合させた日本的思想家であり、
彼の養生観は現代鍼灸の「体質を整え、病を防ぐ」という目的と一致しています。
- 「腹八分」の節度
- 「心静かに」のストレスケア
- 「自然に従う」生活調和
これらはすべて、現代人の健康課題を解決するヒントでもあります。
鍼灸師として、益軒の思想を患者指導・セルフケア教育・地域医療に活かすことで、より深い「人を診る医療」を実践していきましょう。
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