養生訓とは?
『養生訓(ようじょうくん)』は、江戸時代中期の儒学者・医師である貝原益軒(1630〜1714)によって著された、健康と長寿のための生活指南書です。
益軒は、学問や道徳だけでなく、「いかに生き、いかに老いるか」という実践的な健康哲学を重視し、日常生活の細部にわたって養生法をまとめました。
全8巻にわたる『養生訓』は、日本における生活医学・予防医学の原点とされています。
養生訓の基本思想
益軒は、「養生とは天寿をまっとうするために、心身の調和を保つこと」と説きました。
その中核には、以下の4つの柱があります。
🕰 1. 規則正しい生活リズム
- 早寝早起きを守る
 - 適度な運動で血流を保つ
 - 無理をしない・休息を重視する
 
益軒は、「節度」と「習慣」を健康の基礎と考えました。
現代でいう体内時計のリズムを整える生活に通じています。
「過ぎたるは猶及ばざるがごとし」——過労も怠惰も、どちらも寿命を縮めると戒めています。
🍚 2. 食養生 ― 腹八分目の教え
『養生訓』で最も有名な言葉が、「食は腹八分を守るべし」。
過食は万病のもととされ、「少食・淡食・旬の食材」が推奨されています。
- 新鮮で旬の食材を選ぶ
 - よく噛み、食べすぎない
 - 酒や刺激物を控える
 - 食事は心穏やかに摂る
 
これは、現代の「マインドフル・イーティング」や「オートファジー」理論にも通じる考え方です。
🧘♀️ 3. 心の養生 ― 心身一如の思想
益軒は、「心を正せば身も正しくなる」と説きました。
ストレス・怒り・嫉妬・不安などの情動は、身体の不調(病)を招くとされています。
「心を静かにし、気を穏やかに保つこと。怒り・憂い・驚きを避けよ。」
現代医学で言う「ストレス性疾患の予防」「自律神経バランスの維持」に通じます。
鍼灸における心身一如(しんしんいちにょ)の考え方の源流ともいえます。
🌿 4. 自然との調和
益軒は、人間を自然の一部ととらえ、四季や気候の変化に応じて生活を調整することを説きました。
- 春:発生の季節、活動を始める
 - 夏:陽気を養い、心を開く
 - 秋:収斂の時期、体を冷やさない
 - 冬:静養と温補でエネルギーを蓄える
 
これらは、東洋医学の「陰陽調和・五行の理論」と一致し、季節養生(しきようじょう)の基礎となっています。
養生訓の構成(全8巻の概要)
| 巻数 | 内容 | 現代での対応概念 | 
|---|---|---|
| 巻一・二 | 日常生活・行動規範 | 生活リズム・睡眠衛生 | 
| 巻三・四 | 食事・飲食法 | 栄養学・食養生 | 
| 巻五 | 運動・休息のバランス | 運動療法・温活 | 
| 巻六 | 精神的養生・心の持ち方 | ストレスマネジメント | 
| 巻七 | 四季の健康管理 | 季節養生・東洋医学理論 | 
| 巻八 | 長寿の心得・老年期養生 | シニアケア・アンチエイジング | 
養生訓が鍼灸・東洋医学に与えた影響
🩺 ① 予防医学(未病治)の思想の普及
益軒は「病を治すより、病を防ぐ」を重視。
これは東洋医学の根本理念「治未病(ちみびょう)」に直結し、現代の健康経営・未病外来にも影響を与えています。
🪡 ② 鍼灸治療と生活養生の融合
鍼灸治療の目的は「気血の調整」ですが、『養生訓』はその根底を支える生活面の調和を説いています。
鍼灸師が患者にセルフケアを指導する際、『養生訓』の内容は強力なバックボーンになります。
💬 ③ 心身の調和=ホリスティック医療の原点
身体・心・社会・自然の調和を重んじる『養生訓』の思想は、現代の「ホリスティック医学」「統合医療」とも一致。
鍼灸師にとっては、単なる技術ではなく医療人としての心構えを学ぶ書でもあります。
養生訓が現代に伝えるメッセージ
- ✅ 健康は日々の習慣の積み重ねである
 - ✅ 節度とバランスこそ長寿の鍵
 - ✅ 心身一如・自然との調和を忘れない
 - ✅ 知識より実践を——学ぶだけでなく、生活の中で実践してこそ意味がある
 
これらの考え方は、現代のセルフメディケーションやウェルビーイング(Well-being)にも通じます。
養生訓のまとめ
『養生訓』は、江戸時代の長寿本にして、現代東洋医学の原点。
「医者にかからずとも、自ら養生を心がければ病なし」
この思想は、鍼灸師が日々の臨床で伝えるべき“健康教育”そのものです。
- 早寝早起きと節度ある生活
 - 腹八分目と旬の食養生
 - 穏やかな心とストレスケア
 - 四季に応じた暮らしの工夫
 
『養生訓』を現代のライフスタイルに活かすことは、患者のセルフケア意識向上にもつながります。
鍼灸師として、「技」だけでなく「生き方」を伝える臨床を目指しましょう。
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