セーフティネッティング(safety-netting)は、症状が悪化したり、想定した経過と異なったりしたときに、「何を目安に・いつ・どこへ相談するか」をあらかじめ共有する説明です。鍼灸院でも「何かあれば連絡してください」だけで終えず、患者さんが帰宅後に取る行動を具体化します。必要な診察や救急対応を先送りするための説明ではありません。
「様子を見てください」だけでは何が足りない?
患者さんには、どの程度の変化で相談すべきか、夜間は誰に連絡するかが分からない場合があります。英国の家庭医の学会RCGPは、悪化や想定と異なる回復経過に対し、いつ誰へ助けを求めるかを個別に伝えることをセーフティネッティングとして示しています。
ここでは、この対話の考え方を参考にした当サイトの鍼灸院向けの整理案を紹介します。英国の診療手順を日本の鍼灸へそのまま適用したものでも、症状ごとの受診基準を網羅したものでもありません。施術前後の状態に応じ、確認できる資料と自院の対応範囲に基づいて説明します。
帰宅前に共有する4つの項目
- 現在分かっていることと限界。聞き取った症状や確認した状態を伝えます。「必ず問題ない」「施術後だから心配ない」と保証せず、鍼灸院で判断できないことも説明します。
- 注意する変化。どの症状の出現・悪化・持続が相談の目安になるかを、患者さんの状態と施術内容に合わせて具体化します。「いつもと違う」だけで済ませず、何が違えば行動するかを伝えます。
- 行動する時点と相談先。直ちに救急要請が必要な場合、医療機関への早めの相談が必要な場合、院へ通常の質問をする場合を分けます。救急対応が必要な状態を、院の返信待ちにしないことが重要です。
- 次の確認予定と連絡できない場合。何を、いつ確認するかを共有し、休診日・時間外の対応も案内します。予定前に症状が変わった場合は、その予定まで待たなくてよいと伝えます。
全員に同じ「何日様子を見る」という期限を付けず、症状や受診状況に合わせて判断します。すでに診察が必要な状況なら、帰宅後の観察説明だけで済ませず、その時点で医療へつなぎます。
緊急時と迷ったときの相談先を区別する
強い呼吸困難や意識の異常など、緊急性の高い状態では、院への連絡や次回予約を待たず119番へ連絡します。これらは例であり、記載した症状がなければ安全という意味ではありません。施術後に起きた変化を、確認せずに施術に伴う一時的な反応と決めつけないでください。
救急車を呼ぶか、今すぐ受診するか判断に迷う場合には、実施地域の救急安心センター#7119などへ相談する方法があります。利用できる地域・対象年齢・受付時間は、消防庁の#7119案内と地域の情報で確認します。緊急性が高いときに、相談窓口を経由しなければ119番へ連絡できないわけではありません。
医療機関へ情報を引き継ぐときは、鍼灸師の医療機関への情報提供メモの項目を参考にしてください。ただし、文書の作成や院への報告のために受診・救急要請を遅らせません。
説明が伝わったか、患者さんの言葉で確かめる
伝える内容は短く区切り、必要に応じて紙などでも渡します。「分かりましたか」だけでなく、「帰宅後に説明した変化があったら、どう行動するか、ご自身の言葉で教えていただけますか」と確認してみましょう。これは当サイトの声かけ案です。
答えが食い違ったら、患者さんの理解力を責めず説明を言い換えます。理解確認の方法は、ティーチバックの声かけと記録例でも解説しています。本人が希望する場合は支援者にも説明し、読める言葉・形式か、相談先へ連絡できるかも確かめます。
施術記録に何を残す?
次は、当サイトの記録項目案です。症状別の完成した指示書ではないため、空欄を埋めずに患者さんへ渡す用途には使いません。
- 説明した日時、担当者、現在の症状と確認できた状態
- 判断できない点、医療機関への相談を勧めた理由
- 具体的に伝えた症状の変化と、その場合の行動・時点・相談先
- 時間外・連絡がつかない場合の行動、次に確認する内容と予定
- 渡した資料、患者さんが説明した行動、追加で言い換えた内容
「注意事項説明済み」だけでなく、実際に何を伝えたかを残します。診断や必要な医療の代わりにはならず、医師による治療・服薬の中止や変更を鍼灸師から指示しません。
よくある質問
注意事項を書いた紙を渡せば十分ですか?
紙だけで終えず、本人の状態に合う内容を説明し、行動と相談先が伝わったかを確かめます。夜間や休診日に連絡できる先も確認します。
次回予約があれば、それまで待ってもらってよいですか?
一律には言えません。説明した危険な変化が出た場合や症状が悪化した場合は、次回予約を待たず、緊急度に応じて医療機関や救急へつなぎます。
参考情報
- RCGP:Urgent and unscheduled care(個別のセーフティネッティングと緊急対応)
- 総務省消防庁:救急安心センター事業(#7119)






