難聴の種類と原因:早期診断と治療の重要性

1. 難聴とは?なぜ早期対応が大切なのか

難聴とは、音が聞こえにくくなる・言葉がはっきり聞き取れない状態のことです。
聞こえにくさは、単に「不便」というだけではありません。たとえば――

  • 会話が聞き取りづらい → コミュニケーションのストレスが増える
  • 集中しないと聞こえない → 仕事や学習に負担がかかる
  • 聞き返す回数が増える → 気まずさや孤立感につながる
  • テレビの音量がどんどん上がる → 家族との間でギャップが生まれる

特に高齢者では、難聴が進むことで社会的な孤立や気分の落ち込みにつながり、生活の質(QOL)が下がることも指摘されています。
つまり、難聴は「耳だけの問題」ではなく、心の健康・日常生活そのものに影響を与えるものなのです。

早期に気づき、適切なケアを始めることがとても重要です。


2. 難聴の主な種類

難聴は大きく分けると、次の4タイプがあります。原因の場所と仕組みが異なるため、アプローチも変わります。

2-1. 伝音性難聴(でんおんせいなんちょう)

どこで起きる?
外耳~中耳(耳垢がたまる耳道・鼓膜・耳小骨など)で音の伝わり方が妨げられるタイプです。

特徴:

  • 音が小さく聞こえる
  • 全体的にこもったように感じる
  • 「聞こえるボリューム」が下がるイメージ
    → 逆に言うと、音を大きくすると比較的聞き取りやすくなることも多いです。

主な原因:

  • 耳垢の詰まり(耳あか栓塞)
  • 中耳炎(急性・慢性)や滲出性中耳炎
  • 鼓膜の損傷・穿孔
  • 耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨など)の異常
  • 耳管のトラブル(耳管狭窄など)

ポイント:
伝音性難聴は、原因を取り除く・炎症を治療する・手術で構造を整えるなどで改善が期待できる場合も多いタイプです。補聴器でサポートしやすいケースもあります。


2-2. 感音性難聴(かんおんせいなんちょう)

どこで起きる?
内耳(蝸牛)や聴神経など、“音を電気信号に変えて脳に届ける”部分の障害による難聴です。

特徴:

  • 「聞こえるけど、はっきりわからない」
  • 特に高い音(子音など)が聞き取りにくい
  • 騒がしい場所で会話が一気に難しくなる
  • 音が歪んで聞こえることがある

主な原因:

  • 加齢による変化(加齢性難聴)
  • 長期間の大音量(騒音性難聴/イヤホン音量が常に大きいなど)
  • 内耳の病気(メニエール病など)
  • 遺伝的要因
  • 特定の薬剤(アミノグリコシド系抗生物質や一部の抗がん剤など、耳に毒性を示す薬)

ポイント:
感音性難聴は完全な回復がむずかしいことも少なくありません。そのため、

  • 補聴器による聞こえのサポート
  • 人工内耳などの医療的デバイス
  • コミュニケーション環境の工夫
    といった継続的なケアが大切になります。

2-3. 混合性難聴(こんごうせいなんちょう)

どこで起きる?
伝音性と感音性が同時に重なっている状態です。

例:

  • 慢性中耳炎で音の通りが悪い(伝音性)
    + 内耳の細胞自体もダメージを受けている(感音性)

特徴:

  • 音が小さく感じるうえに、音質も歪む
  • 低い音も高い音も両方とらえづらい場合がある
  • 症状が複雑になりやすい

ポイント:
複数の原因が絡むため、治療は個別設計になります。
中耳側への処置+補聴器/リハビリなど、組み合わせでアプローチすることが多いです。


2-4. 中枢性難聴(ちゅうすうせいなんちょう)

どこで起きる?
耳そのものではなく、脳の「聞いた音を意味として処理する場所」に問題が生じるタイプです。

特徴:

  • 音そのものは“聞こえる”感覚はある
  • でも、言葉の意味が取りづらい/会話が頭に入ってこない
  • 複数人が同時に話すと特にわからなくなる

主な原因:

  • 脳梗塞・脳出血などの脳血管障害
  • 頭部外傷
  • 発達や神経系のトラブルによる聴覚情報処理の障害

ポイント:
リハビリや環境調整(静かな場所で話す、ゆっくりはっきり話す、視覚情報を併用する)がとても重要になります。耳鼻科だけでなく、神経内科・リハビリ専門職との連携が必要になることもあります。


3. 難聴の主な原因(なぜ聞こえにくくなるの?)

難聴は「年齢のせい」だけではありません。次のようなものが関わります。

加齢

年齢とともに内耳の有毛細胞(音を電気信号に変える細胞)が少しずつ減っていき、高音から聞き取りにくくなることがあります。
会話の中の「サ行・タ行・カ行」など、子音が特にわかりにくくなるのが典型的です。

騒音・大音量

工事現場、ライブ・クラブ、イヤホン大音量での長時間リスニングなどは、内耳にダメージを与え、感音性難聴につながることがあります。若い世代でも要注意です。

中耳炎・感染・炎症

中耳炎や反復する耳の炎症は、鼓膜や耳小骨に影響を与えることがあり、伝音性難聴の原因になります。特に子どもは要観察。

薬剤性

一部の薬(特定の抗生物質、抗がん剤など)は耳に副作用を与えることがあります。治療中は医師の管理下で聴力チェックを行うことが大切です。

外傷・事故

頭を強く打った後に急に聞こえにくくなる、耳鳴りが止まらない、といった場合はすぐ受診すべきサインです。

遺伝

生まれつき、あるいは幼少期からの聴力低下に関わるケースもあります。家族歴がある場合は、早い段階からのスクリーニングが重要です。


4. 難聴の代表的な症状サイン

次のようなことに心当たりがある場合は、早めに専門家(耳鼻咽喉科など)に相談しましょう。

  • 以前よりもテレビやラジオの音量を上げないと聞こえない
  • 家族から「音が大きすぎる」と言われる
  • 会話の聞き返しが増えた/相手の声がこもって聞こえる
  • 騒がしい場所だと、ほとんど言葉が拾えない
  • 耳鳴りが続いている
  • めまいやふらつきが出る(内耳が平衡感覚も担当しているため)

特に「聞こえるけど、言葉の内容がはっきりしない」のは早期サインになりやすいです。放置せずチェックしましょう。


5. 難聴はどう診断される?

耳鼻咽喉科や専門クリニックでは、以下のような検査・評価が行われます。

聴力検査(オージオメトリー)

どの高さの音(周波数)が、どの大きさ(デシベル)なら聞こえるのかを測定します。難聴の程度やタイプを客観的に評価する基本検査です。

音叉検査

音叉を使って骨伝導(骨を通る音)と空気伝導(耳道〜鼓膜〜中耳〜内耳を通る音)を比較し、伝音性か感音性かを推定します。簡便ですがとても有用です。

耳の視診(耳鏡検査)

耳道や鼓膜の状態を直接確認します。耳垢づまり、中耳炎、鼓膜の異常など、すぐに治療できる原因が隠れていることもあります。

画像検査(CT・MRI)

腫瘍・構造異常・脳血管障害などが疑われるときは、CT/MRIで詳細に確認します。中枢性難聴の評価にも有用です。

問診

・いつから聞こえにくいのか
・片耳だけか両耳か
・耳鳴り・めまいはあるか
・仕事や趣味で大音量にさらされていないか
などを丁寧に確認します。これが治療方針の出発点になります。


6. 難聴の主な治療・サポート方法

難聴のタイプ・重症度・生活背景によって変わります。代表的なものを紹介します。

補聴器

音を増幅して聞き取りやすくする医療機器です。
最近の補聴器は小型・高性能化しており、騒がしい場所でも声を強調したり、左右のバランスを自動で調整したりできます。
「まだ早い」と我慢せず、早めに導入するほど脳の“聞き取り慣れ”を保ちやすいと言われています。

人工内耳(人工内耳/コクレアインプラント)

重度の感音性難聴の場合、手術によって内耳(蝸牛)に電極を埋め込み、音を電気信号として聴神経に直接届ける方法が検討されます。
幼少期からの言語発達サポートや、成人の重度難聴の生活改善において重要な選択肢です。

薬物療法・処置

  • 中耳炎など炎症・感染が原因の場合は抗生物質や抗炎症薬
  • 耳垢栓塞なら耳垢除去
  • 耳管の機能改善が必要な場合も、耳鼻科的な処置が行われます

原因がはっきりしているタイプの伝音性難聴は、治療で改善が期待できることも少なくありません。

手術

鼓膜再建術や耳小骨の手術など、耳の構造を修復・改善することで音の伝わりを良くする手術が選択される場合があります。

生活習慣の見直し

  • 大音量のイヤホンを避ける
  • 騒音のある職場では耳栓・イヤーマフで耳を守る
  • 定期的に聴力検査を受ける
    これは「これ以上悪くしない」ためのとても大切なセルフケアです。

鍼灸によるサポート

鍼灸は、耳鳴りやストレス由来の耳周りの緊張に対するリラクゼーションサポートとして活用されることがあります。
ストレス過多や首・肩の過緊張が強い場合、めまい・耳鳴り・耳閉感(耳が詰まった感じ)などの不快感がやわらぐケースも報告されています。

  • 耳周囲だけでなく、首肩・自律神経のバランスを整える目的で施術することが多いです。
  • 鍼灸は「難聴そのものを確実に治す」ものではなく、あくまで補助的なケア、負担軽減のサポートという位置づけで考えると安心です。

強い耳鳴り・急な聴力低下・めまいを伴う場合は、まず耳鼻科などの医療機関が優先です。そのうえで、生活の質を高める補完ケアとして鍼灸を併用するのはひとつの選択肢になります。


7. 難聴とともに暮らすための工夫(QOL向上のヒント)

コミュニケーション環境を整える

  • 静かな場所で話す
  • 話す相手の顔を見て、口の動き・表情から情報を得る
  • 明るい場所で会話し、視覚情報を補う
  • 「今から大事なことを話すよ」と前置きしてもらうのも有効です

テクノロジーを活用する

  • 補聴器や人工内耳だけでなく、字幕・文字起こしアプリ・音声認識などデジタルサポートを取り入れる
  • 動画や会議には字幕機能を使う
    「聞こえないから諦める」ではなく「別の手段で受け取る」に切り替えることで孤立を防げます。

心のケア

難聴は、人との会話がストレスになる・外に出るのが億劫になる、といった“ひとり化”を招きがちです。
カウンセリングやサポートグループ(同じ悩みを持つ方どうしの交流)を活用し、安心して話せる場所を持つことも大切です。

定期チェックを続ける

「ちょっと聞こえにくいけどまだ大丈夫」と放置すると、知らないあいだに進行していることがあります。
定期的な聴力検査は、早期発見・早期対応のいちばんの近道です。


8. まとめ:難聴は「気づいた時点でケア開始」がいちばんの予防策

難聴には、

  • 伝音性難聴(音が耳の中をうまく伝わらないタイプ)
  • 感音性難聴(内耳・神経のトラブルで音が歪むタイプ)
  • 混合性難聴(両方の特徴)
  • 中枢性難聴(脳での処理の問題)
    といった種類があり、原因・対策はそれぞれ異なります。

大切なのは、「年齢のせいだから仕方ない」と決めつけないこと。
耳の炎症や耳垢といった比較的シンプルな原因で改善できる場合もあれば、補聴器・人工内耳などで生活の質を大きく引き上げられることもあります。

  • 以前より聞き返しが増えた
  • テレビの音が大きくなった
  • 耳鳴り・めまいが続く
  • 日常会話が聞き取りづらい

こうしたサインがあれば、耳鼻咽喉科など専門機関への相談をおすすめします。
鍼灸は、ストレス・緊張・耳鳴りに対するリラクゼーション的なサポートとして組み合わせることで、日常の負担をやわらげる手段となることもあります。

「聞こえにくいから引きこもる」のではなく、早めにケアして、安心して話せる・参加できる毎日を整えていきましょう。

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