鍼灸でサポートする起立性調節障害|自律神経バランスを整える安全なアプローチと実践ガイド

起立性調節障害(OD)とは?

起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation, OD)は、立位への体位変換にうまく適応できずめまい・ふらつき・動悸・倦怠感・頭痛・腹痛・朝起きられないなどが続く、自律神経機能不全の総称です。学齢期〜思春期に多く、登校・学業・部活動・出社など日常生活に大きな影響を及ぼします。
診断は問診に加え、起立試験(仰臥→立位)での血圧・心拍の変化、日内変動、症状の持続期間等を総合評価します。

赤旗(要紹介):失神を繰り返す、胸痛・呼吸困難・神経脱落症状、急激な体重減少、器質的心疾患の既往—これらは速やかな医療機関評価を優先。


病態の要点(鍼灸の視点で把握)

  • 循環調整の破綻:立位での下肢血液貯留↑ → 脳灌流↓ → めまい・倦怠
  • 過度の交感神経亢進/副交感神経低下:動悸・不安・入眠困難
  • 睡眠・栄養・運動不足・ストレス:自律神経の日内リズムを乱す増悪因子
  • 思春期の急成長・ホルモン変動:発症〜遷延の背景に関与

鍼灸が担える役割

鍼灸は自律神経の再調律・末梢循環の改善・睡眠とストレスの是正を目的に、薬物療法・生活指導と併走する補完療法として有用です。
主な期待効果:

  • 交感/副交感バランスの調整(心拍・血圧の反応性の緩和)
  • 脳・末梢循環サポート(立位時のふらつき軽減)
  • 頭痛・腹痛・肩項部筋緊張の緩和
  • 睡眠の質改善・不安軽減 → 朝の起床困難の軽減に寄与

位置づけ:単独治療ではなく小児科/内科・スクールカウンセラー・理学療法等との多職種連携で効果最大化。


主要経穴と施術プロトコル(例)

個別評価(脈・舌・姿勢・生活リズム)を踏まえ、以下を軸に加減します。

中枢・自律神経調整

  • 百会(GV20):頭頂/情動緊張・睡眠・血圧反応の平準化
  • 内関(PC6):前腕内側/動悸・不安・悪心、迷走神経トーン↑
  • 神門(HT7):手関節尺側/情緒安定・入眠サポート

循環・消化・体力軸

  • 気海(CV6)・関元(CV4):腹部の温煦・起立耐性の底上げ
  • 足三里(ST36):全身調整・消化機能・耐疲労
  • 三陰交(SP6):内分泌・睡眠・冷え
  • 太渓(KI3):体温調整・倦怠感

頭痛・肩こり随伴時

  • 風池(GB20)・完骨(GB12)・合谷(LI4)など症候に応じ選穴

施術頻度・期間(目安)

  • 導入期:週1回 × 4〜6週で自律神経リズムの再学習
  • 改善期:隔週〜月1回へ漸減、登校・運動再開の歩みと同調
  • 小児・思春期では細径・浅刺・短時間、温熱(知熱灸・温灸)併用で受容性を高める

刺激量:低〜中等度。迷走神経反射に配慮し、座位→臥位で開始、終了前に臥位休息→ゆっくり起立。


セルフケアと生活指導(再発予防のカギ)

行動リズム

  • 起床時刻固定(休日も±1h以内)、朝光曝露(カーテン開放/ベランダで2–3分)
  • 学校・仕事は遅刻短時間参加でも継続を推奨(完全休止はリズム悪化)

水分・塩分

  • 水分 1.5–2.0L/日(年齢・体格で調整)
  • 食塩 8–10g/日目安(医師指示があれば優先/腎・心疾患は個別対応)

運動

  • レッグポンプ(つま先立ち/膝屈伸)、下肢筋力(スクワット・カーフレイズ)
  • 有酸素は座位・臥位起点(エアロバイク/スイミング)→ 漸増

睡眠衛生

  • 就床前90分の入浴(38–40℃)、カフェインは昼以降回避、就床1h前の画面遮断

ストレス・情動

  • 腹式呼吸・マインドフル呼吸3分×1日数回
  • 学校・家族との合意形成(目標の小刻み化)—成功体験の積み上げを優先

ツボ押し(就床前・外出前に60–90秒)

  • 百会/内関/神門/足三里:痛気持ち良い圧で一定リズム

施術の実務ポイント(鍼灸師向け)

  • 初診評価:起立での自覚症状、睡眠・食事・通学状況、家族背景、服薬・既往、起立試験情報の有無
  • 同意形成:ODは“怠け”ではないこと、波を描いて改善することを説明
  • KPI設定:朝の起床成功回数/欠席日数/NRS(めまい・倦怠)/PSQI(睡眠)/学校滞在時間
  • 連携:小児科/内科・学校・カウンセラーと情報共有。投薬(昇圧薬等)併用下でも可
  • 安全管理:空腹・脱水時は避ける、治療後の急な起立禁止、失神既往には仰臥位から徐々に 

よくある質問(患者・保護者向け)

Q. どのくらいで良くなりますか?
A. 個人差がありますが、4〜6回で朝の動き出しやめまいの頻度に変化が出る例が多いです。生活リズムの是正とセットで加速します。

Q. お薬と併用できますか?
A. 可能です。主治医に施術の旨を共有し、安全に併用します。

Q. 痛みが苦手です。
A. 細い鍼・浅刺・短時間で行い、温灸中心でも十分効果が見込めます。

Q. 学校に行けていないのですが?
A. まずは午前中の起床・登校準備だけなど、小さな達成から再スタートを支援します。


施術プラン例(テンプレ)

1–2週:週1(百会・内関・神門・気海・足三里+温灸)→ 就寝・起床時刻固定
3–4週:週1(症状別追加:頭痛=風池/合谷、腹症状=中脘/天枢)→ 有酸素10–15分開始
5–6週:隔週(維持)→ 学校滞在時間の延長、朝の補食+水分/塩分の徹底
7週以降:月1(再発予防)→ 季節変わり目にフォロー


メディカル連携・注意事項

  • POTS(体位性頻脈症候群)などの鑑別が必要な場合あり:心拍数増加が顕著、長期化する場合は心電図・自律神経検査を依頼
  • 器質的疾患の除外が未実施の場合は先に医療機関
  • 鍼灸は補完療法。医師の診断・治療方針を尊重し、安全第一で実施

まとめ

起立性調節障害は、自律神経・循環調整の不全が背景にあり、生活リズムの再構築と補完療法の併用が改善の近道です。鍼灸は自律神経の再調律・循環の底上げ・睡眠/ストレスの是正を通じて、登校・学業・社会復帰の歩みを後押しします。
個別化した選穴×穏やかな刺激×行動療法を柱に、医療・学校・家族と協働することが、持続的な改善につながります。

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