鍼の抜き忘れを防ぐ基本は、体位変換前と施術終了前に使用した鍼の本数を確認し、抜鍼後の身体を改めて確かめることです。全日本鍼灸学会の「鍼灸安全対策ガイドライン2025年版」は、複数人のダブルチェック、または施術者自身によるクロスチェックを推奨しています。本数が合わないまま体位を変えたり、患者を帰したりしない運用が必要です。
なぜ「抜いたはず」だけでは足りないのか
同ガイドラインは、使用鍼の数え間違い、抜鍼したとの思い込み、抜鍼後の確認不足を、抜き忘れの要因に挙げています。残った鍼は、体位変換や衣服の着脱などで思わぬ傷害につながる可能性があります。置鍼中の鍼をタオルなどで覆わないことも同ガイドラインの注意点です。抜鍼後の確認では、毛髪などで見えにくい部位にも注意します。「声に出して数えた」ことと「実際に残っていない」ことを別々に確認します。
確認を入れる2つの時点
1.体位変換の前
患者の向きを変える前に、その体位で使用した鍼の本数と抜鍼済みの本数を照合し、刺鍼部位を目で確認します。鍼が残っている可能性があるときは、体位変換をいったん止めて確認します。置鍼中に鍼を追加・抜去した場合も、その都度記録を更新すると、後の照合がしやすくなります。
2.施術終了の前
すべての抜鍼を終えたら、使用鍼と抜鍼済みの本数を照合し、刺鍼部位を確認します。数が合っていても、身体に鍼が残っていないかを確かめます。抜鍼後、タオルや衣服の周辺に鍼が紛れていないかも確認します。確認結果を施術録に残す方法は、施設の体制に合わせて決めておきます。
一人で行うクロスチェックと、担当交代時の引き継ぎ
一人で施術する場合は、同じ確認を漫然と繰り返すのではなく、「使用本数と抜鍼本数の照合」と「刺鍼した部位の再確認」のように異なる観点でクロスチェックします。複数人で対応できる場合は、別の施術者によるダブルチェックも検討します。これは学会ガイドラインが推奨する確認方法です。
刺鍼した人と抜鍼する人が異なる場合は、置鍼中の部位、現在残っている本数、途中で追加・抜去した鍼を具体的に引き継ぎます。単に「全部抜いてください」と伝えるだけでは、照合の起点が分かりません。施術所ごとの記録様式や役割分担を決め、引き継ぎを受けた人が終了前の本数と身体の確認を行えるようにします。これは研究報告とガイドラインを踏まえた実務上の提案で、すべての施設に同じ記録様式を義務付けるものではありません。
本数が合わない、抜き忘れが見つかったとき
本数が合わないときは確認を終えたことにせず、患者の安全を確保して施術者間で状況を共有し、使用記録・刺鍼部位・周辺を再確認します。抜き忘れが判明した場合、学会ガイドラインは速やかな鍼の回収、患者の身体に異常がないかの確認、回収した鍼に損傷がないかの点検を求めています。鍼が折れて完全に埋没した、または抜去が困難な場合は、無理な抜去を避け、状況を説明して速やかに医療機関での診察を手配します。胸郭周囲への施術後に胸痛や息苦しさがある場合も医療機関での評価を優先し、強い呼吸困難がある場合は速やかに救急搬送を要請します。
施術前の問診と安全確認を整える際は、鍼灸院の初診問診票で確認したい安全項目も参照してください。抜き忘れ発見後の対応は本記事の手順と施設の事故対応体制を優先します。
よくある質問
本数が一致すれば、抜き忘れはないと判断できますか?
本数の照合だけで終えず、刺鍼部位や見えにくい場所も確認します。数え間違いや抜鍼したとの思い込みが起こり得るためです。
一人の鍼灸院でもダブルチェックが必要ですか?
ガイドラインは、複数人によるダブルチェック、または施術者単独によるクロスチェックを推奨しています。一人で対応する場合は、数の照合と部位の再確認を分けて行う方法が考えられます。
鍼が折れているかもしれないときはどうしますか?
まず回収した鍼に損傷がないかを点検します。折れた鍼が完全に埋没した、または抜去が困難な場合は無理な抜去を避け、患者の状態を確認して状況を説明し、速やかに医療機関での診察を手配します。胸郭周囲への施術後に胸痛や息苦しさがあれば医療機関での評価を優先し、強い呼吸困難があれば速やかに救急搬送を要請します。






