活動電位とは?神経や筋肉の働きを支える電気信号のメカニズム
活動電位(かつどうでんい、英: Action Potential)とは、神経細胞や筋細胞などの興奮性細胞が刺激を受けたときに発生する一過性の膜電位の変化を指します。これは生体内の信号伝達や、情報処理、筋肉の収縮を行うための基盤となる現象であり、電気的な信号が細胞を通じて伝わるメカニズムです。活動電位は神経系の働きを理解する上で極めて重要で、脳や脊髄からの指令、感覚器からの情報の伝達、筋肉の動きなどを可能にしています。
活動電位の概要、発生メカニズム、神経細胞と筋細胞における役割、活動電位の伝導、活動電位に関わるイオンチャネル、そして活動電位が生体に与える重要な影響について解説します。
活動電位の概要
活動電位は、細胞膜を介した電気的な電位差が急激に変化する現象であり、興奮性細胞(神経細胞、筋細胞、内分泌細胞など)で発生します。通常、細胞膜には静止膜電位という電位差が存在しており、細胞内は細胞外に対して負の電位を持っています。この静止膜電位は、内側がマイナス約60〜70ミリボルト(mV)で安定しています。
外部からの刺激(化学的、電気的、物理的)によって、細胞膜の透過性が変化し、ナトリウムイオン(Na⁺)やカリウムイオン(K⁺)といった特定のイオンの移動が促進されると、膜電位が急激に変化します。この電位変化が活動電位です。
活動電位は、以下の一連のフェーズを経て進行します:
- 脱分極(Depolarization)
- 再分極(Repolarization)
- 過分極(Hyperpolarization)
これらのフェーズは、主にナトリウム(Na⁺)とカリウム(K⁺)の電位依存性チャネルの開閉によって調整されています。
活動電位の発生メカニズム
1. 静止膜電位
通常の状態では、細胞内は細胞外に比べて負の電位を持っています。これは、主にナトリウム-カリウムポンプと呼ばれる酵素が関与しており、細胞内にカリウムイオン(K⁺)を、細胞外にナトリウムイオン(Na⁺)を能動輸送することで静止膜電位が維持されています。この状態では、細胞膜はナトリウムイオンに対して不透過性ですが、カリウムイオンは一部通過できる状態にあります。
この「静止膜電位」の値は約-70mVで、細胞が休んでいるときの電位差を指します。
2. 刺激による脱分極
細胞が外部から十分な強さの刺激を受けると、膜電位が急激に変化し始めます。刺激によってナトリウムチャネルが開くと、ナトリウムイオン(Na⁺)が急速に細胞内に流入し、細胞内の電位が急速に上昇します。この脱分極により、膜電位は一時的に正に転じ、約+30〜40mVにまで達します。
3. 再分極
脱分極が一定の閾値を超えると、ナトリウムチャネルが閉じ、次にカリウムチャネルが開きます。この段階では、カリウムイオン(K⁺)が細胞外に流出し、細胞内の電位が再び低下していきます。これを再分極といい、細胞内の電位は元の負の電位に戻り始めます。
4. 過分極
再分極の過程でカリウムイオンの流出が一時的に過剰になると、膜電位が通常の静止膜電位よりも低くなり、過分極と呼ばれる現象が起こります。この時期、膜電位は-80mV前後まで下がることがあります。その後、ナトリウム-カリウムポンプの働きによって、膜電位は静止状態に戻ります。
活動電位の伝導
1. 神経細胞における活動電位の伝導
神経細胞(ニューロン)は、情報を電気的信号として伝達します。活動電位は、ニューロンの軸索(アクソン)を通じて、他のニューロンや筋肉細胞に信号を伝えるための基本メカニズムです。
活動電位が発生すると、その電気的変化が軸索を一方向に進むように伝わります。この伝導は、以下の2つの形態で進行します。
- 連続伝導:有髄神経(髄鞘を持つ神経)でない場合、活動電位は連続的に軸索の各部分に広がります。
- 跳躍伝導:有髄神経では、髄鞘が絶縁体として働き、ランヴィエ絞輪(髄鞘が途切れている部分)でのみ活動電位が発生します。これにより、活動電位が跳躍的に伝導し、伝導速度が飛躍的に向上します。
2. 筋細胞における活動電位の伝導
筋細胞でも、活動電位は重要な役割を果たしています。神経筋接合部で活動電位が筋肉に伝わると、カルシウムイオンが放出され、これが筋収縮を引き起こします。筋細胞の活動電位は、神経と同様に電位依存性ナトリウムチャネルとカリウムチャネルによって制御されています。
活動電位に関わるイオンチャネル
活動電位の形成と伝導において、イオンチャネルは極めて重要な役割を果たします。イオンチャネルは、特定のイオン(ナトリウム、カリウム、カルシウム、クロライドなど)を通過させるための膜タンパク質であり、膜電位の変化に応じて開閉します。
1. 電位依存性ナトリウムチャネル
脱分極の初期段階でナトリウムイオンが細胞内に流入する際に、電位依存性ナトリウムチャネルが開きます。このチャネルは、膜電位が一定の閾値を超えると開き、ナトリウムイオンを急速に細胞内に取り込むことで脱分極を引き起こします。
2. 電位依存性カリウムチャネル
脱分極後、再分極を引き起こすためにカリウムイオンが細胞外に流出する際に、電位依存性カリウムチャネルが開きます。このチャネルが開くことで、カリウムイオンの流出が促進され、膜電位は再び負の値に戻ります。
3. カルシウムチャネル
特定の神経細胞や筋細胞では、カルシウムイオンチャネルも活動電位に関与します。特に、筋収縮や神経伝達物質の放出において、カルシウムチャネルが開き、カルシウムイオンが細胞内に流入することで重要な役割を果たします。
活動電位の生体における役割と影響
活動電位は、生体の様々な機能に関与しており、特に神経系、筋肉系、感覚系において不可欠です。以下に、活動電位が生体に与える主な影響をまとめます。
1. 神経系の情報伝達
神経系において、活動電位は情報の伝達手段です。例えば、視覚や聴覚、痛覚などの感覚信号は、感覚受容器で発生した活動電位が中枢神経系に伝わり、脳で認識されます。逆に、脳からの指令は、運動神経を通じて活動電位として筋肉に伝えられ、運動が引き起こされます。
2. 筋肉の収縮
筋細胞でも、活動電位はカルシウムイオンの流入を引き起こし、筋収縮を誘導します。これにより、身体のあらゆる運動が可能になります。心筋や平滑筋でも、活動電位が心拍や内臓器官の働きを調節するために重要な役割を果たしています。
3. 感覚系における役割
感覚系では、活動電位が環境からの刺激(光、音、圧力、温度など)を電気信号に変換する役割を果たします。感覚受容器で発生した活動電位は、神経を通じて中枢神経系に伝達され、私たちの感覚として認識されます。
4. 内分泌系の調節
内分泌細胞でも活動電位が発生し、ホルモンの分泌を調節する役割を果たします。これにより、体内の様々な生理的プロセスが調整されます。
活動電位に関わる病態
活動電位の異常は、さまざまな疾患の原因となります。例えば、ナトリウムやカリウムチャネルに異常があると、神経や筋肉の過剰な興奮や抑制が生じ、以下のような疾患を引き起こすことがあります。
1. てんかん
てんかんは、脳の異常な電気的活動が原因で発生する疾患です。活動電位が過剰に発生することで、痙攣発作が引き起こされます。
2. 心筋不整脈
心筋細胞の活動電位が正常に伝わらないと、心拍が不規則になる不整脈が発生します。これは、ナトリウムやカリウムチャネルの異常によって引き起こされることがあります。
3. 筋無力症(ミオパチー)
筋細胞での活動電位が正しく伝わらないと、筋肉の収縮がうまく行われず、筋無力症が引き起こされることがあります。
活動電位のまとめ
活動電位は、神経細胞や筋細胞などの興奮性細胞における基本的な電気信号であり、私たちの身体のあらゆる機能を支える重要なプロセスです。活動電位は、細胞膜を介してナトリウムやカリウムなどのイオンが動くことによって生じ、脳からの信号伝達や感覚の処理、筋肉の収縮などに大きく関与しています。
活動電位は、正常な生命活動を維持するために不可欠ですが、イオンチャネルの異常や電気的活動の異常が生じると、てんかんや不整脈、筋無力症などの病態が引き起こされる可能性があります。活動電位のメカニズムを理解することは、神経科学や生理学、医学の重要な基礎となります。
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