はじめに|「つわりがつらい。でも薬はあまり使いたくない…」
妊娠初期~中期にかけて多くの方が経験するつわり。
「常にむかむかする」「食べると吐きそう」「においだけで気持ち悪い」「疲れやすくてぐったり」──。これらはとてもよくあることですが、日常生活に影響してしまうと本当にしんどいですよね。
東洋医学では、やさしい温熱刺激でからだの巡りと胃腸のはたらきを整える「お灸」がサポートの一つとして用いられることがあります。ここでは、妊娠中でも比較的取り入れやすいツボ、セルフケアのポイント、そして「やってはいけない注意点」までまとめます。
重要:強い嘔吐で水も飲めない/急に体重が減っている場合は「妊娠悪阻(にんしんおそ)」の可能性があるので、必ず医療機関を受診してください。お灸だけで対処してはいけません。
1. つわりとは?いつ始まって、いつ落ち着く?
つわりは妊娠初期に多くみられる吐き気・嘔吐・食欲不振などの総称です。
一般的には妊娠6週ごろから始まり、12〜16週ごろに落ち着いてくることが多いと言われますが、個人差は大きく、人によっては中期以降まで続くこともあります。
よくみられる症状
- 吐き気・むかつき
- 嘔吐(食後・空腹時どちらでも起こる)
- 食べられるものが極端に限られる
- においに敏感になる
- 唾液が増える
- 強い疲労感・だるさ
- 「味が変」「水がまずい」と感じる
これらは「気のせい」ではありません。妊娠によるからだの変化そのものです。
2. なぜつわりは起こるの?
つわりの原因はひとつではありませんが、以下の要素が関わると考えられています。
- ホルモン変化
妊娠初期に急激に増えるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)やエストロゲンの変化が、胃腸の動きや嘔吐中枢に影響すると考えられています。 - 血糖の変動
妊娠中は血糖値が下がりやすく、空腹でも気持ち悪い・食べても気持ち悪い、という悪循環になることがあります。 - ストレス・心理的負担
心身の緊張は自律神経バランスを乱し、吐き気を悪化させることがあります。 - 体質・遺伝的要素
家族につわりが強い人がいると、似た経過になる場合も。
東洋医学では、つわりを「胃(消化)と気の流れが上逆している状態」ととらえ、胃の負担を下げて気の流れを落ち着かせることを目標にします。
3. つわり緩和に用いられる主なツボ
ここからは、妊娠中のつわりサポートとしてよく挙げられる経穴(ツボ)を紹介します。
押して心地よい程度の指圧や、市販のやさしい温灸(台座灸などの低刺激タイプ)で用いられることがあります。
※セルフで強い刺激を加えないこと、長時間・高温で続けないことがとても大切です。
① 内関(ないかん)
- 場所:手首の内側。手首のしわから肘側へ指3本分の位置で、2本の腱の間。
- 期待できること:
- 吐き気・胸のムカムカ感の軽減
- 不安・そわそわ感の緩和
- ポイント:
- 妊娠中の吐き気ケアとして海外でもリストバンド型刺激が市販されるほど、定番のポイント。
- 指でじんわり押すだけでも◎
② 足三里(あしさんり)
- 場所:膝のお皿の外側下端から指4本分下のあたり、すねの外側の筋肉が触れる場所。
- 期待できること:
- 胃腸の働きをサポート
- 体力の消耗感・だるさ・食欲不振のケア
- ポイント:
- 「食べられない→力が出ない→さらに気持ち悪い」という悪循環に、少しでもブレーキをかけたいときに用いられます。
- 温かすぎない、心地よい程度の台座灸が向いています。
③ 合谷(ごうこく)
- 場所:手の甲側、親指と人さし指の骨が合わさる根元のくぼみ。
- 期待できること:
- 頭痛・緊張による吐き気のサポート
- 首肩のこわばり緩和、リラックス
- 注意:
- 合谷は全身の巡りを動かすパワーが強いツボとして知られており、妊娠後期・分娩時には陣痛促進を目的に用いられることもあります。妊娠初期のセルフ灸・強い圧は避け、自己判断で強刺激を加えないでください。
④ 三陰交(さんいんこう)
- 場所:内くるぶしの頂点から指4本ぶん上、すねの骨の後ろ側のやや押して響きやすいポイント。
- 期待できること:
- ホルモンバランスサポート
- 水分代謝・むくみ・冷えのケア
- 重要な注意:
- 三陰交は、産科領域では「婦人科系の調整」によく使われますが、同時に分娩誘発・陣痛促進の刺激点としても有名です。
- 妊娠中の自己流での強い刺激・長時間のお灸は避けるべき代表ツボです。セルフでは押しすぎ/温めすぎに注意し、基本的には鍼灸師の指導下で行ってください。
4. 妊娠中のお灸の使い方(セルフケア版)
お灸は「強い熱」ではなく「心地よい温かさ」が基本です。妊娠中は特に安全第一で。
ステップ
- ツボの位置を確認し、皮膚に傷・湿疹・かぶれがないことをチェック。
- 市販の台座灸(間接灸)のような低温タイプを使う。直接灸(皮膚に直接もぐさを置いて燃やすタイプ)は避ける。
- 灸に点火し、ツボの上にそっと置く。
「じんわり温かい」と感じる程度でOK。熱い・チクチク・痛いと感じたらすぐ外す。 - 1カ所につき1壮〜2壮(短め)から始める。長時間行わない。
- 施術後、赤みやヒリつきが強い場合は中止し、冷やして安静に。
頻度の目安
- 1日1回まで、様子を見ながら。
- 「今日は明らかに体調が悪い/ふらつく/お腹が張る」という日は行わない。
やってはいけない例
- 我慢できない熱さになるまで続ける
- 長時間の連続施灸
- お腹まわり・腰回りへ自己判断で熱刺激を行う(特に妊娠初期〜中期は避ける)
- 体調が悪いのに「効くはず」と無理をする
5. つわりをやわらげる日常ケア(お灸とあわせてやるとラク)
お灸はサポートの1つ。合わせて下のような生活ケアも、とても現実的で効果的です。
こまめな食事
・「3食しっかり」より「少しずつ何回も」が基本。
・クラッカー、ビスケット、フルーツ少量、冷たいゼリー飲料など“いけるもの”を手元に置く。
・空腹になりすぎると吐き気が強くなる人も多いので、朝目覚めてすぐに一口食べられるものを枕元に置いておく方もいます。
水分補給
・少量ずつ、こまめに。冷たすぎるものが楽な人、常温が楽な人、炭酸水が楽な人など個人差あり。
・吐き気が強いときはストローや氷片での水分補給も方法の一つ。
におい対策
・調理中のにおいがダメな場合は、キッチンを離れる/家族に調理をお願いする/換気をしっかりする。
・「これだけは無理な匂いリスト」を家族に共有しておくと、精神的にもラクになります。
休息
・「昼寝=甘え」ではなく、つわり期は体がフル稼働中。遠慮なく横になる。
・光や音を少し落として静かな環境をつくると、吐き気が和らぐ方もいます。
リラックス
・深呼吸、ゆっくりした音楽、アロマ(※香りがつらくない種類だけ)などで自律神経を落ち着かせる。
・不安で症状が悪化する方も多いため、「これは一時的な生理現象」という理解そのものが安心材料になります。
6. 鍼灸師に相談するメリット
セルフケアだけで不安なとき、妊娠中こそプロのサポートが安心材料になります。
- その日の体調(脈・舌・お腹の張り・冷えなど)を見て、刺激の強さを判断してもらえる
- 「どこに」「どれくらい」「どの頻度で」お灸するか、あなた用に調整してもらえる
- 三陰交など妊娠中の扱いに注意が必要なツボは、専門家の管理下でのみ刺激
- 吐き気以外(肩こり・頭痛・眠れない・イライラするなど)も総合的に整えてもらえる
「お腹が張る感じがある」「痛みがある」「出血がある」など、産科的に注意が必要なサインがある場合は、まず産科医・助産師への相談が最優先になります。これはとても大事です。
7. まとめ|“がんばらないケア”がいちばんのケア
- つわりは妊娠初期に多くの方が経験する自然な変化。吐き気・食べられない・疲れやすいなどは、あなたの弱さではありません。
- お灸(特に内関・足三里など)によるやさしい温熱刺激は、吐き気の軽減や全身のだるさケアに役立つことがあります。
- ただし妊娠中は刺激量がとても大事。三陰交など、自己判断で強く刺激すべきでないツボもあります。
- 「少量ずつ食べる」「においを避ける」「こまめに休む」「安心できる環境をつくる」といった生活調整も同じくらい重要です。
- つらいときは一人で抱え込まず、産科医・助産師・鍼灸師に相談してください。安全にサポートできます。
※水分がとれないほどの嘔吐、体重が急に減る、意識がもうろうとする、めまいが強いなどの症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。お灸やセルフケアでは対応できません。
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