1. 産後うつとは?
産後うつ(Postpartum Depression)は、出産後に母親の心身に生じるうつ症状や情緒不安定を指します。
出産直後の女性の約10〜20%が発症するとされ、疲労感・不安・悲しみ・無気力などの症状が現れます。
主な原因は、
- ホルモンバランスの急激な変化
- 睡眠不足・疲労の蓄積
- 育児や生活環境のストレス
- 孤独感やサポート不足
 などが挙げられます。
現代では「心の問題」ではなく、身体的・生理的な変化に基づく疾患としての理解が進んでいます。
2. 鍼灸が産後うつに有効な理由
鍼灸は、体と心を一体としてとらえる東洋医学的アプローチであり、
産後うつの「根本原因」に働きかけることができます。
🩺① ホルモンバランスの調整
出産後、エストロゲンやプロゲステロンの急激な低下が自律神経を乱し、気分の落ち込みを引き起こします。
鍼灸は、脳下垂体—卵巣系のホルモン分泌を整えることで、自然なホルモンバランスを回復させます。
主に使われるツボ:
- 三陰交(さんいんこう):女性ホルモンの調整・血行促進
- 関元(かんげん):体力回復・エネルギー補充
- 太谿(たいけい):腎の働きを補い、全身のバランスを整える
🌿② 自律神経の安定とストレス緩和
鍼灸の刺激は副交感神経を活性化し、心身をリラックス状態へ導きます。
ストレスホルモン(コルチゾール)の過剰分泌を抑えることで、
イライラ・焦燥感・不安感を軽減します。
おすすめのツボ:
- 神門(しんもん):心の安定・不安緩和
- 百会(ひゃくえ):頭頂部のツボで、自律神経の調整に効果的
- 内関(ないかん):ストレス緩和・呼吸の安定
🌙③ 睡眠の質を改善
産後は睡眠の断続化によって心身の疲労が蓄積します。
鍼灸によって体の緊張を緩め、血流を改善し、深い眠りを促すことが可能です。
ツボ例:
- 安眠(あんみん):睡眠改善・不安軽減
- 足三里(あしさんり):全身の疲労回復・免疫力向上
3. 東洋医学からみる「産後うつ」
東洋医学では、産後うつは主に次の3つの状態が重なって起こると考えられます。
| 東洋医学的原因 | 症状の特徴 | 主な治療方針 | 
|---|---|---|
| 気血両虚(きけつりょうきょ) | 疲れ・めまい・不安感 | 気血を補い体力回復 | 
| 肝気鬱結(かんきうっけつ) | イライラ・情緒不安定 | 気の流れを整える | 
| 心脾両虚(しんぴりょうきょ) | 不眠・食欲不振・抑うつ | 精神と消化機能を安定 | 
鍼灸はこれらの状態を個別に見極め、体質に合わせた施術を行うことがポイントです。
4. 鍼灸+セルフケアでできる産後うつ予防
鍼灸治療と並行して、以下のセルフケアを取り入れることで改善効果が高まります。
🧘♀️① 深呼吸と軽いストレッチ
副交感神経を優位にし、体と心をリラックスさせます。
夜眠る前の5分間の「腹式呼吸」は特に効果的です。
☕② 温かい飲み物で体を温める
体の冷えはホルモンの乱れを助長します。白湯やハーブティー(カモミール・ジンジャー)で内側から温めましょう。
🤱③ 周囲のサポートを得る
パートナーや家族に体調・気分を共有することも、回復の一歩です。鍼灸院では必要に応じて助産師・心理士との連携も推奨します。
5. 産後うつケアにおける鍼灸師の役割
鍼灸師は、産後の母親の身体と心をトータルでサポートできる立場にあります。
フェムテックや医療データ(ホルモン周期・睡眠ログなど)を組み合わせることで、
より科学的で安心感のある東洋医学的ケアを提供できます。
「母体の回復なくして、育児の幸福なし」
鍼灸は、その回復を支える温かいケアとして今後ますます重要性が高まります。
6. まとめ
産後うつは、ホルモン変化とストレスが複雑に絡み合う心身の不調です。
鍼灸は、薬に頼らず体のリズムを整え、自然な回復を促す優れた治療法です。
- ホルモンバランスを整える
- 自律神経を安定させる
- 睡眠の質を改善する
これらを通じて、母親自身が「自分を取り戻す」ための時間をつくることができます。
鍼灸師として、産後うつの正しい理解とエビデンスに基づくアプローチを行い、
女性のウェルビーイング(心・体・社会の調和)を支えていきましょう。
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