はじめに|眠れない悩みに、今日からできる一歩を
「寝つけない・途中で起きる・早朝に目が覚める・熟睡感がない」。これらが続くと仕事や学習効率、メンタル、体調に影響します。本稿では不眠症の定義→原因→診断→治療→セルフケアの順で、医療的視点に加え鍼灸・東洋医学の活用もやさしく解説します。
1. 不眠症とは?
以下が週3回以上・3か月以上続き、日中機能低下を伴う状態を指します。
- 入眠困難:寝つきが悪い
- 中途覚醒:夜中に何度も目が覚める
- 早朝覚醒:予定より早く目が覚める
- 非回復的睡眠:十分眠っても疲労感が残る
不眠は一過性(急性)から慢性まで幅があり、背景要因の見極めが改善の鍵です。
2. 不眠症の原因(4つの視点で整理)
(1) 心理・社会的要因
仕事・学業・人間関係のストレス、将来不安、喪失体験など。交感神経優位が続き入眠が妨げられます。
(2) 環境要因
騒音、光(ブルーライト)、寝室の温湿度・寝具不適合、就寝前のデバイス使用。
(3) 生活習慣
カフェイン/アルコール、喫煙、就寝直前の激しい運動、昼寝過多、不規則な起床時刻。
(4) 医学的要因
うつ・不安障害、慢性疼痛、アレルギーや喘息、睡眠時無呼吸症候群(OSA)、むずむず脚症候群(RLS)、内分泌変化(更年期・甲状腺)や薬剤副作用 など。
3. 診断の流れ
- 問診:症状の型・経過・誘因、既往歴、服薬、日中機能を整理
- 睡眠日誌(1–2週間):就床/起床・中途覚醒・昼寝・カフェイン等を記録
- 検査:OSAが疑われる場合は睡眠ポリグラフ等を検討
- 併存症の評価:うつ・不安、物質使用、疼痛コントロールなど
4. 治療法(多面的アプローチ)
A. 環境の整備(睡眠衛生)
- 起床時刻を毎日固定(休日も±1時間以内)
- 光のコントロール:朝は日光、夜は暖色・低照度。就寝1–2時間前は画面をオフ
- 温度湿度:目安は温度18–22℃・湿度40–60%、寝具は放湿性/保温性を最適化
- ホワイトノイズや耳栓、遮光カーテンの活用
B. 生活習慣の改善
- カフェインは就寝6–8時間前以降を避ける。アルコールは入眠は促すが中途覚醒を悪化
- 運動:週150分の中等度運動+就寝前3時間以内は軽いストレッチに留める
- 昼寝は20–30分/午後早めまで
C. 心理的アプローチ(第一選択)
- 認知行動療法(CBT-I)
- 刺激制御:眠気がないのに床上滞在しない/寝室=睡眠の連想づけ
- 睡眠制限:実睡眠時間に合わせて就床時間を調整
- 認知再構成: “眠れないと明日終わり”等の破局思考を修正
- リラクセーション:呼吸・漸進的筋弛緩・マインドフルネス
D. 薬物療法(医師管理下)
- 短期的な非ベンゾジアゼピン系・メラトニン受容体作動薬・オレキシン受容体拮抗薬等を適応・副作用・相互作用を考慮し処方。長期連用や自己増量は避ける。
5. 鍼灸の役割|自律神経を整え“眠れる体質”へ
温熱・鍼刺激により交感/副交感のバランス調整、筋緊張の緩和、末梢循環サポートを狙います。
よく用いる経穴(例)
- 神門(しんもん):入眠儀式化・不安緩和
- 内関(ないかん):自律神経の安定、胸のつかえ
- 三陰交(さんいんこう):冷え・ホルモンバランスの乱れに伴う不眠
- 百会(ひゃくえ):頭重・覚醒過多の鎮静
- 足三里(あしさんり):全身調整・胃腸サポート
施術頻度は週1回から開始し、反応に応じて間隔を調整。妊娠中や基礎疾患がある方は必ず専門家に相談。
6. 今夜からできるセルフケア(実践チェックリスト)
□ ベッドは眠気が来てから/眠れなければ20分で一旦離床
□ 起床後すぐに朝日+軽い体操
□ カフェインは14時まで/アルコールは量・頻度を抑える
□ 就寝90分前に入浴(40℃で10–15分)
□ 3分呼吸法:4秒吸う–6秒吐くを3分、就寝前に
□ ツボのセルフ指圧(各30–60秒・痛気持ちよい範囲)
- 合谷/神門/三陰交/太衝:呼吸に合わせゆっくり
自宅でのお灸は台座灸から。熱さを我慢しないこと、同一点の長時間刺激を避けることが安全のコツ。
7. 不眠症状を呈し得るその他の睡眠障害(鑑別メモ)
- 概日リズム睡眠・覚醒障害:DSWPD/ASWPD、交代勤務障害
- OSA(閉塞性睡眠時無呼吸):いびき・日中の過度な眠気・熟睡感低下
- RLS/PLMD:脚の不快感や周期性運動で入眠・維持困難
- レム/ノンレム随伴症:悪夢障害、レム睡眠行動障害、夜驚・夢中遊行 等
いずれも疑わしければ専門医へ早めの相談を。
8. まとめ|“起床時刻固定+CBT-I+生活整備+必要時は鍼灸”
不眠は単独の原因でないことが多く、行動・環境・心理・身体への総合的アプローチが有効です。
- 第一選択はCBT-I、環境と生活の再設計が土台
- 薬物療法は短期・適切に
- 鍼灸は自律神経調整とリラクセーションで“眠れる体質”づくりを後押し
今日できる小さな一歩を積み重ね、「眠れる自分」を再学習していきましょう。
※体調や症状に不安がある場合は、医療機関または鍼灸師にご相談ください。
FAQ
Q. 何週間で改善しますか?
A. 生活調整+CBT-Iで数週から変化が出る例が多いですが個人差があります。3か月以上変化が乏しければ再評価を。
Q. 昼寝はダメ?
A. 0ではなく20–30分/午後早めまで。夕方以降は夜の眠気を奪います。
Q. お灸はどのくらい?
A. 台座灸なら1カ所1–3壮、合計10–15分を目安に週2–3回から。肌トラブルがあれば中止。
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