鍼灸師が知っておくべき理学療法士との多職種連携|統合的アプローチで広がる患者ケアの可能性

理学療法士とは?

理学療法士(PT:Physical Therapist)は、病気やケガ、加齢などによって低下した身体機能を回復・維持する専門職です。
医師の指示のもとで、運動療法や物理療法を用い、患者が日常生活を再び自立して送れるよう支援します。

理学療法士は、リハビリテーション医療の中核を担い、病院だけでなく、介護施設・訪問看護ステーション・スポーツ分野など多方面で活躍しています。


理学療法士の主な業務内容

🩺 1. 診断・評価(アセスメント)

理学療法士は、筋力・柔軟性・関節可動域・バランス・歩行姿勢などを評価し、機能低下の原因を特定します。
また、疼痛や疲労の要因を分析し、治療方針を立案するための基礎データを収集します。

🧭 2. 治療計画の立案

評価結果に基づき、個々の患者に最適なリハビリ計画を策定します。
プログラムには、運動療法・物理療法・姿勢指導・生活動作の改善が含まれます。

💪 3. 運動療法の実施

筋力トレーニング、ストレッチ、関節可動域訓練、バランス訓練などを通じて、
筋肉・神経・関節の機能を回復させます。鍼灸との併用により、筋緊張緩和や疼痛抑制がさらに高まります。

🌡️ 4. 物理療法の提供

温熱・電気刺激・超音波・冷却などの物理的刺激を利用し、血行促進・疼痛緩和・組織修復を促します。

🏡 5. 生活指導とセルフエクササイズ

患者が自宅で安全に行えるホームリハビリを指導し、再発防止を図ります。
また、日常生活の姿勢や動作の改善もサポートします。


理学療法士になるまでの流れ

理学療法士は国家資格であり、次のステップを経て取得します。

1️⃣ 養成校(大学・専門学校)で3年以上学ぶ
 → 解剖学・生理学・運動学・臨床実習を通して知識と技術を修得。

2️⃣ 国家試験に合格
 → 厚生労働省が定める国家試験に合格することで資格を取得。

3️⃣ 臨床現場での経験を積む
 → 医療機関や福祉施設で、急性期から在宅期まで幅広いリハビリに携わります。

近年では、大学院での研究・教育・スポーツ医療分野への進出も増加しています。


日本における理学療法士の現状

  • 登録理学療法士数:約19万人(令和3年時点)
  • 高齢化の進行により需要は増加傾向
  • ただし、2040年には供給数が需要の約1.5倍になると推計(厚生労働省「理学療法士・作業療法士需給推計」より)

これにより、理学療法士は医療から地域リハ・介護・予防分野へと活躍の場を広げています。

📄 参考資料:厚生労働省:理学療法士・作業療法士の需給推計(平成31年)


鍼灸師と理学療法士の多職種連携の意義

理学療法士と鍼灸師は、アプローチ方法は異なりますが、
「痛みの改善」「機能回復」「QOL向上」という目的は共通しています。

この2つの専門職が連携することで、以下のような相乗効果(シナジー)が生まれます。

🔸1. 包括的な治療プランの構築

鍼灸による筋緊張の緩和・疼痛コントロールと、理学療法による再教育・運動機能回復を組み合わせることで、
治療の効率と持続性が高まります。

例)
鍼灸で腰痛を緩和 → その後にPTが体幹トレーニングを実施 → 再発防止につなげる

🔸2. 患者満足度の向上

異なる専門職が協働することで、患者は「体全体をトータルで診てもらえる安心感」を得られます。

🔸3. 医療・介護チーム内での役割補完

在宅医療・訪問リハビリなどの現場では、
鍼灸師が疼痛管理・自律神経調整を担当し、理学療法士が動作改善・リハビリ計画を担うことで、
多面的な支援が可能になります。

🔸4. チーム医療の強化

双方が定期的にカンファレンスや情報共有を行うことで、重複治療を避け、効率的なリハビリテーションが実現します。


鍼灸師が理学療法士と連携する際のポイント

1️⃣ 専門分野を尊重し合う
 → 理学療法士は運動・動作分析の専門家、鍼灸師は痛みと体質改善の専門家。役割の違いを理解することが大切。

2️⃣ 共通言語を持つ
 → 評価指標(ROM・MMT・VASなど)を共有すると、治療経過の把握がスムーズ。

3️⃣ 情報共有を徹底する
 → 鍼灸施術後の変化をPTに伝えることで、運動療法の効果が高まる。逆にPTからも筋緊張・可動域の情報を得る。

4️⃣ リハビリテーション医療の枠組みを理解する
 → 鍼灸が医療・介護保険領域でどう位置づけられているかを把握し、安全かつ適法な連携を行う。


鍼灸×理学療法による相乗効果の実例

症状鍼灸アプローチ理学療法アプローチ相乗効果
慢性腰痛経穴刺激で筋緊張緩和体幹強化・姿勢改善再発防止・動作改善
五十肩鍼で炎症抑制・可動域改善ストレッチと運動訓練疼痛軽減+機能回復
膝関節痛灸で血流改善・鎮痛筋力トレーニング歩行安定・活動量向上
自律神経失調鍼で自律神経調整呼吸法・姿勢改善ストレス軽減・睡眠改善

まとめ

理学療法士は、運動療法や物理療法によって身体機能の回復を支援する専門職です。
鍼灸師との連携により、痛みの緩和+機能回復+予防という3つの視点から包括的な治療が可能になります。

✅ 鍼灸:症状の緩和・体質改善
✅ 理学療法:運動機能の再構築・再発防止
→ 両者が協働することで、患者のQOL(生活の質)をより高いレベルで支えることができます。

高齢化社会の進展とともに、鍼灸師には「他職種と協働するスキル」が求められています。
理学療法士との連携は、まさにその第一歩。
患者中心の医療・地域包括ケアにおいて、鍼灸師の可能性はますます広がっていくでしょう。

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