鍼灸院にも突然の緊急事態は起こり得る
鍼灸院には、慢性的な痛みや体調不良を訴える多くの患者が訪れます。しかし、中には脳卒中(脳梗塞・脳出血)や心臓発作(心筋梗塞など)といった、緊急性の高い疾患の兆候を示す方が紛れている可能性もあります。
鍼灸師は国家資格を持つ医療人である以上、こうした緊急事態への初期対応を知っておくことは、患者の命を守るうえで極めて重要です。
なぜ鍼灸院での緊急対応が必要なのか?
🧠 脳卒中や心臓発作は「時間との勝負」
これらの疾患は発症から数分〜数時間以内に処置しなければ、後遺症や死亡のリスクが急激に上昇します。
鍼灸では治療できない領域であるため、即座に医療機関に引き継ぐ必要があります。
🩺 鍼灸の限界を理解し、医療連携を
鍼灸は「気血の流れ」「自律神経の調整」などに強みを持ちますが、緊急処置には対応できません。だからこそ、異変に気づいたら即対応する「判断力」と「マニュアル」が重要になります。
脳卒中・心臓発作の主な兆候と見極めポイント
鍼灸師が知っておくべき代表的な兆候を以下にまとめます。
【脳卒中の主な症状】
症状 | 具体例 |
---|---|
半身の麻痺・しびれ | 突然、片側の手足に力が入らない、しびれる |
言語障害 | ろれつが回らない、言葉が出てこない |
顔の歪み | 片側の口角が下がる、笑顔が非対称になる |
視野異常 | 視界がぼやける、見えにくい |
強い頭痛 | 経験したことのない激しい痛み |
意識障害 | ふらつき、失神、混乱 |
【心臓発作(心筋梗塞など)の主な症状】
症状 | 具体例 |
---|---|
胸の痛み・圧迫感 | 胸が重く締めつけられる感覚、持続する痛み |
放散痛 | 肩・腕・背中・首・あごへ広がる痛み |
息切れ・呼吸困難 | 会話が続かない、突然の呼吸困難 |
冷や汗・吐き気 | 強い不安、めまい、嘔吐感を伴う場合も |
異常な疲労感 | 特に運動をしていないのに強い倦怠感がある |
鍼灸院での緊急時対応フロー【STEP別解説】
▶ STEP1:鍼灸を中止し、症状を冷静に確認
施術中または問診中に異常を感じたら、すぐに鍼を抜き、治療を中止してください。
- 呼びかけに対する反応はあるか?
- 左右差(顔・手足)の動きは正常か?
- 胸部の痛み・息切れなどがあるか?
▶ STEP2:すぐに119番へ通報
迷うよりも、通報が最優先です。以下の情報を救急オペレーターに伝えます。
- 現在の症状とその発症時刻
- 意識の有無・呼吸の有無
- 既往歴や服薬情報(可能な範囲で)
- 鍼灸院の正確な住所・連絡先
▶ STEP3:救急車到着までの応急対応
- 意識がある:楽な姿勢にし、安静を保つ。会話が可能なら、呼吸と脈を見守る。
- 意識がない:呼吸停止なら心肺蘇生(CPR)を実施。胸骨圧迫が最優先。
▶ STEP4:救急隊員へ情報を的確に引き継ぐ
- いつから症状が現れたか
- どんな順序で悪化したか
- 使用した鍼・部位・施術中か否か
- 電子カルテや問診票のコピー(可能であれば)
電子カルテの活用で緊急対応がスムーズに
紙カルテでは情報検索に時間がかかる一方、電子カルテなら過去の既往歴・薬剤情報・施術履歴などを即座に確認・共有可能です。
🔹 電子カルテがもたらす3つの利点
- 情報共有の迅速化:救急隊や医師に情報を正確に渡せる
- ヒューマンエラーの防止:薬アレルギーや持病を即座に確認可能
- スタッフ間の情報共有:シフト制でもカルテ閲覧がスムーズ
事前準備とスタッフ教育が命を守る
✅ 緊急連絡先を明示しておく
→ 院内の見やすい場所に、119番のかけ方、最寄りの医療機関リストを掲示
✅ CPR訓練・救急対応研修の実施
→ AED設置、実技研修、症例シミュレーションなどで即対応力を強化
✅ 医療機関との連携体制を整備
→ 近隣病院とあらかじめ連携し、受け入れ先を明確化しておく
予防こそ最大の防御|問診と観察で未然に察知
● 丁寧な問診でリスクを洗い出す
- 高血圧、糖尿病、心疾患、脳梗塞歴などの既往歴を必ず確認
- 症状の傾向や体調変化をヒアリング
● 日常の観察を怠らない
- 「今日はちょっと様子が違う」と思ったら、迷わず注意を払う
- 患者の話し方、表情、歩き方に違和感がないかを観察
よくある質問(FAQ)
Q:鍼灸院で救急車を呼ぶのは過剰では?
→ いいえ、命に関わる症状があればためらわずに119番を。
鍼灸師が医療の限界を見極めることも職業倫理の一環です。
Q:鍼灸による副作用でこうした症状が出る可能性は?
→ 鍼灸の副作用で重篤な発作を直接起こすことは稀です。
ただし、高齢者や基礎疾患を持つ方には細心の注意が必要です。
まとめ|鍼灸院の安全性を高めるために、緊急対応力を身につけよう
「鍼灸」は自然治癒力を高め、全身のバランスを整える素晴らしい医療ですが、それだけに患者の体調変化を敏感に察知する観察力と判断力が重要です。
脳卒中や心筋梗塞のような突発的な疾患は、時間との戦い。鍼灸師としての責務は、必要なときに医療につなげることです。
電子カルテの導入、スタッフ教育、問診力の向上、そして何より「命を守る」視点を持つことが、信頼される鍼灸院づくりに直結します。。
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